大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

「大学入学共通テスト」の実施方針について

 7月13日、文部科学省から、大学入試センター試験に代わる「大学入学共通テスト(平成33年(2021年)~)」の実施方針について発表がありました。http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/07/1388131.htm

 大学入試センター試験からの主な変更点として、国語及び数学の試験の一部に記述式問題を導入すること、英語の試験に外部検定試験を活用することなどが示されています。他の教科での記述式問題の出題やCBT(Computer Based Testing)の導入などについては、引き続き検討されるようです。

 大学入学共通テストの実施については、大学入試センター試験(平成2年(1990年)~)同様、大学入試センターがその業務を担うことになります。

 大学入試センターは、共通第1次学力試験(昭和54年(1979年)~平成元年(1989年))を実施するために、昭和52年(1977年)に設立された組織です。(この業界ではDNCとも称されます。)
http://www.dnc.ac.jp/


 5月16日に文部科学省から示された「「大学入学共通テスト(仮称)」実施方針(案)」に関しては、国立大学協会日本私立大学連盟、日本テスト学会などから意見やコメントが公表されていました。

 ・国立大学協会の意見(6月14日)
 http://www.janu.jp/news/files/20170614-wnew-teigen.pdf
日本私立大学連盟の意見書(6月9日)   
 http://www.shidairen.or.jp/blog/info_c/academics_c/2017/06/09/21039
・日本テスト学会パブリックコメント(6月13日)
 http://www.jartest.jp/public_comment.html

 

 因みに、日本テスト学会では、以下のとおり年次大会が開催される予定です。

・日本テスト学会〔第15回大会〕
 8月19日(土)、20日(日)東北大学/川内キャンパス
 http://www.ihe.tohoku.ac.jp/jart2017/

 

 大学入試について考えるためには、大学入試の歴史やテストに関する基礎的な理論を知る必要があります。手頃なところで、以下のような本があります。

f:id:mohtsu:20170809124206j:plain

繫桝算男編『新しい時代の大学入試』(金子書房、2014年)

 

公認心理師について

 本年9月、新たな国家資格として「公認心理師」の制度が始まります(公認心理師法の施行)。平成30年度から、受験資格取得のためのコースを設置する予定の大学も多いのではないでしょうか。

 http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/kouninshinrishi/

 昨年9月から、公認心理師カリキュラム等検討会(文部科学省厚生労働省)が継続的に開催され、本年6月、その報告書が発表されています。

 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai.html?tid=380707

 なお、民間資格である臨床心理士は、今度も継続される予定です。

 

 大学に限らないことですが、いわゆる心理職の需要は高止まりしたままのようです(もっとも、需要に見合う心理職を雇用できる機関はそう多くはないと考えられます)。

 以下の報告書では、カウンセラー等の専門職の充実に加え、学生支援の3階層モデル(日常的学生支援(窓口業務等)、制度化された学生支援(クラス担任等)及び専門的学生支援(カウンセラー等)の連携)が提言されています。

 f:id:mohtsu:20170805010119j:plain

『大学における学生相談体制の充実方策について -「総合的な学生支援」と「専門的な学生相談」の「連携・協働」-』(日本学生支援機構、2007年)

大学とICTについて

 大学とICT(情報通信技術)との関係は、今後も深まる一方でしょう。
 平成22年(2010年)、米国のEDUCAUSE(1998年、EDUCOMとCAUSEが統合され誕生)の日本版ともいうべき大学ICT推進協議会(AXIES)が発足しました。
 機関誌『大学教育と情報』を出版している私立大学情報教育協会(JUCE)は、平成4年(1992年)(前身の組織は昭和52年(1977年))に設立されています。

*EDUCAUSE https://www.educause.edu/
*AXIES https://axies.jp/ja
*JUCE http://www.juce.jp/


 ICTの先進地、米国の大学の動向は目を見張るものがあります。
 2003年には、マサチューセッツ工科大学(MIT)が、オープンコースウェア(OCW)を発足させました。OCWとは、授業の資料等(一部には授業のビデオ)をインターネット上で公開する取組です。

 世界トップクラスの大学が参加する公開オンライン講座MOOC(Massive Open Online Course) の動きも活発です。MOOCには多くのプラットフォームがありますが、2012年に設立されたedX(エディックス:MIT、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校等が参加)やCoursera(コーセラ:スタンフォード大学プリンストン大学ミシガン大学等が参加)などが有名です。因みに、2013年、edXには京都大学が、Courseraには東京大学が加盟しました。
 MOOCの日本版JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)も2013年に立ち上がっています。

*edX https://www.coursera.org/
*Coursera https://www.edx.org/
*JMOOC https://www.jmooc.jp/

 

 大学、企業、個人が、それぞれの動機、思惑をもってMOOCに参入する様は、ダイナミックな世界の動きそのもののように感じます。

f:id:mohtsu:20170802223026j:plain

金成隆一『ルポ MOOC革命 無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店、2013年)

大学設置基準の改正(大学職員関係)について ~その2〔教職協働〕~

(昨日の続き)

 二つ目は、平成29年3月に公布された教職協働に関する内容です。以下、新設された条文です。

 

(第2条の3)
 大学は,当該大学の教育研究活動等の組織的かつ効果的な運営を図るため,当該大学の教員と事務職員等との適切な役割分担の下で,これらの者の間の連携体制を確保し,これらの者の協働によりその職務が行われるよう留意するものとする。
 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1385804.htm

 

 「事務職員・事務組織等がこれまで以上に積極的な役割を担い」、また「教員・事務職員等の垣根を越えた取組が一層必要」(「大学設置基準等の一部を改正する省令の公布について(通知)」)とされています。

 

 1年前に公布された「SDの義務化」も含め、大学職員あり方については、「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」(中教審大学分科会  平成26年2月12日)のなかで、大学設置基準改正の方向性が示されていました。(今回、「高度専門職の設置」は見送られたことになります。)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/11/11/1353308_05.pdf

 

 そもそも、大学設置基準は、大学基準協会の「大学基準」に代わるものとして、昭和31年(1956年)に文部省令として法令化されたものです。そのような経緯をもつ大学設置基準は、どのような特徴をもち、大学を規定しているのでしょうか。以下は、大学設置基準に関する数少ない研究報告です。
f:id:mohtsu:20170731233609j:plain
天城勲・慶伊富長編『大学設置基準の研究』(東京大学出版会、1977年)

 

大学設置基準の改正(大学職員関係)について ~その1〔SDの義務化〕~

 平成29年4月に改正(施行)された大学設置基準において、大学職員に関わる2つの条文が追加されました。それぞれ、今日と明日、2回にわたって書きたいと思います。

 まず、一つ目は、平成28年3月に公布されたSD(スタッフ・ディベロップメント)に関する内容です。以下、新設された条文です。

 

(第42条の3)
 大学は、当該大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため、その職員に必要な知識及び技能を習得させ、並びにその能力及び資質を向上させるための研修(第25条の3に規定するものを除く。)の機会を設けることその他必要な取組を行うものとする。

 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1369942.htm

 

 ここで、「「職員」には、事務職員のほか、教授等の教員や学長等の大学執行部、技術職員等も含まれる(「大学設置基準等の一部を改正する省令の公布について(通知)」の留意事項)」とされ、広義の大学職員を指しています。
 また、「第25条の3」の条文には、「大学は、当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする」とあり、つまり、授業改善のための取組(FD)を指しています。

 

 今回の設置基準の改正により、SDに関する考え方が整理できます。つまり、SDの対象は、教員、事務職員に関わりなく、大学の構成員全体であるということ、また、SDの内容は、(FD以外の)大学の効果的な運営に関すること全般にわたるということが読みとれます。

 

 国立大学の職員も含めた大学職員論が俄かに活気づき始めた頃、SDの議論を先導した活動の一つに、筑波大学大学研究センターが実施した一連の研究会(1999年、2001年、2003年)がありました。以下は、その平成15年(2003年)の記録です。

f:id:mohtsu:20170731001039j:plain

山本眞一編『SDが支える強い大学づくり 大学職員は何を学び、それをどう生かすか?』(文葉社、2006年)

教員養成(再課程認定)について

 日本の教員養成は、特定の大学に限らず一般の大学にも開かれ、いわゆる「開放制の教員養成」の原則をとっています。(戦前は、師範学校等においてのみ教員養成を行っていました。) 昭和28年(1953年)、教育職員免許法が改正され、「課程認定」の制度が整いました。
 ただし、今日では、開放制の原則のもと、「教員養成に対する明確な理念(養成する教員像)の追求・確立がなされていない」、「教職課程の組織編成やカリキュラム編成が、必ずしも十分整備されていない」大学があるなどの課題も指摘されています(中央教育審議会『今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)』(平成18年7月11日))。

 目下、教員免許業務に携わる大学関係者の関心事は、今年度末に迫った再課程認定の申請でしょう。いよいよ、今月から文部科学省による各地区での説明会が始まりました。
 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kyoin/1387995.htm

 

 教員免許業務は、関係する多くの法令の解釈作業に加え、自大学のカリキュラムの知識が不可欠であり、しかも、制度改正も多く、非常に複雑な業務となっています(実際、たびたび大学のミスが報道されています)。今回の再課程認定に関しても、新たな知識が必要になりますが、これまでに出版された本も教免業務の理解に有用です。

f:id:mohtsu:20170728000644j:plain

小野勝士・村瀬隆彦・上西浩司・中井俊樹編『大学の教員免許業務Q&A』(玉川大学出版部、2014年)

f:id:mohtsu:20170728000721j:plain

『教員免許更新制ガイドブック』(文教協会、2016年)(※文教協会は今年6月30日に解散しました。)

 

 

国立大学協会について

 今年度も「国立大学法人職員必携」が国立大学協会(国大協)から発行されました。まとまった部数購入する大学も多いのではないでしょうか。
 http://www.janu.jp/news/whatsnew/20170720-wnew-hikkei.html
 
 国大協は、新制国立大学発足直後の昭和25年(1950年)に設立されています。設置形態に応じて、公立大学が加盟する公立大学協会、私立大学には日本私立大学連盟及び日本私立大学協会があり、戦後のほぼ同時期に設立されています。それぞれが、提言や研修・セミナーの開催等の活動を行っています。

 最近では、いわゆる研究大学(Research University)の団体「RU11(学術研究懇話会)」が発足するなど(2009年)、設置形態を越えた連携の動きも活発になっているようです。
*RU11 http://www.ru11.jp/index.html
 
 国大協をはじめとする大学団体が設立された1950年前後は、大学にも民主化の機運が高まり、民主主義科学者協会に代表される科学運動がかつてない拡がりをもちました。今日の日本では、科学運動の有効性は失われているものの、戦後の科学運動を知ることは現在の大学理解の一助になると思います。以下は廣重徹(1928-75)の代表作の一つです。

f:id:mohtsu:20170726005610j:plain

廣重徹『戦後日本の科学運動』(中央公論社、1960年)(こぶし書房、2012年)(廣重徹が大学について扱った論文に「日本の大学の理学部 -その科学社会史的側面(中央公論社『自然』1965年5月号)」(『近代科学再考』(朝日新聞社、1979)(筑摩書房、2008)に再録)などがあります。)

9月の学会(大学教育関係)について

 9月は、学会シーズンの1つです。学会が平日に行われる場合は、授業がなく、会場(教室)も借りやすい春季(3月)か秋季(9月)の休暇中に開催されるのが一般的です。土、日を中心に実施される学会は、入試の時期や学期初めを避け、初夏か初冬に設定されるようです。
 9月に開催される大学教育に関わる学会(年次大会)を2件紹介します。

初年次教育学会〔第10回大会〕
 9月6日(水)、7日(木)中部大学/春日井キャンパス
 http://www.jafye.org/conf/conf2017/

日本教育工学会〔第33回全国大会〕
 9月15日(金)~18日(月・祝)島根大学/松江キャンパス
 https://www.jset.gr.jp/taikai33/

 

 学会は研究者にとって重要な活動の場であり、大学関係者にとっても、教員の理解に欠くことのできない非常に重要な要素の一つであると思います。そもそも、学会はいつ、どのように成立したのでしょうか。以下の本の「学会の成立と展開」という章に、その経緯(英国のロイヤル・ソサエティから、科学が制度化され、広く学会が展開された19世紀まで)を簡潔にまとめられています。

f:id:mohtsu:20170724202425j:plain

成定薫『科学と社会のインターフェイス』(平凡社、1994年)