大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

学生支援機構と奨学金政策について

 昨日、JASSOに触れましたので、少しJASSOについて説明したいと思います。
 日本学生支援機構(JASSO:Japan Student Services Organization)は、日本育英会、日本国際教育協会、内外学生センター等が合併し、平成16年(2004年)に設立された、文部科学省所管の独立行政法人です。奨学金事業のほか、留学生支援、学生生活支援等の事業、調査、研修等を実施しています。
http://www.jasso.go.jp/

 

 奨学金、特に貸与型奨学金は、昨今の経済情勢の悪化や大学進学率の上昇ともあいまって、たびたび制度上の課題を指摘されるようになりました。

 昨年6月2日、「ニッポン一億総活躍プラン」が閣議決定され、そのなかで給付型奨学金の創設等の方針が示されました。
http://www.gov-online.go.jp/tokusyu/ichiokusoukatsuyaku/plan/
 今年から、新しい給付型奨学金制度が実施されることになっています。
http://www.gov-online.go.jp/tokusyu/shougakukin2017/index.html

 この問題への関心は高く、9月16日開催の私立大学フォーラム(日本私立大学連盟)でも、奨学金や高等教育への公的支援の問題が取り上げられます。
http://www.shidairen.or.jp/activities/forum

 

 日本の奨学金制度の問題点を指摘する本の出版が相次いでいます。教育への公的支出の在り方も大きな争点だと思います。

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奨学金問題対策全国会議編(伊東達也、岩重佳治、大内裕和、藤島和也、三宅勝久著)『日本の奨学金はこれでいいのか!』(あけび書房、2013年)

 

 米国では、教育政策の権限は州政府にありますが、様々な経緯を経て、連邦政府による学生支援策が展開されてきました。

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犬塚典子『アメリカ連邦政府による大学生経済支援政策』(東信堂、2006年)

 

障害のある学生の修学支援について

 例年、この時期に日本学生支援機構(JASSO)による「障害のある学生の修学支援に関する実態調査(平成17年から毎年実施)」が行われており、各大学の担当者は回答を提出する準備をされていることと思います(今年の回答期限は10月13日)。

 昨年(平成28年)は、障害者差別解消法施行後の最初の調査でしたが、その結果が今年の4月に公表されています。
http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/chosa_kenkyu/chosa/index.html

 また、学生支援機構主催の障害学生支援のためのセミナーが全国で開催されています。
http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/event/zenkoku_seminar/h29/index.html

 

 障害者差別解消法によって、国公立大学は行政機関等として、障害者への「合理的配慮」の提供が義務付けられました。(私立大学(学校法人)は事業者として、努力義務として位置づけられましたが、当然ながら軽視することは許されない問題です。)
 ここでいう「障害者」とは、障害者手帳の所持者に限られるものではありません。
 教育機関における、合理的配慮の考え方については、文部科学省が公表している「対応指針」が参考になります。

文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針の策定について
 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1364725.htm

 

 障害のある学生の修学支援について、教職員のための手引きが学生支援機構から出版されています。

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『教職員のための障害学生修学支援ガイド(平成26年度改訂版)』(日本学生支援機構、2015年)

博士人材のキャリアについて

 今月、科学技術・学術政策研究所から、博士人材のキャリアに関する2つの調査結果(速報版)が公表されました。

「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-2015年度実績-速報版」
http://www.nistep.go.jp/archives/33979

「博士人材追跡調査」第2次報告書(速報版)
http://www.nistep.go.jp/archives/34133

 

 大学院の博士課程修了(満期退学)者の進路は、大学関係者にとって常に懸案の課題として存在しています。今日では、進路の問題だけではなく、教育の目的、カリキュラム、指導体制などの大学院教育の本質的な部分に関して批判や議論が続いており、政策の上でも対策が打ち出されていますが、依然として大きな進展があるとは言えない状況です。

 

 博士人材のキャリアについては、「大学院重点化」後、政策課題として採り上げられたこともあり、この問題に関する書籍も数多く出版されています。

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国立教育政策研究所日本物理学会キャリア支援センター編『ポストドクター問題 -科学技術人材のキャリア形成と展望』(世界思想社、2009年)

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佐藤裕・三浦美樹・青木深/一橋大学学生支援センター編著『人文・社会科学系大学院生のキャリアを切り開く <研究と就職>をつなぐ実践』(大月書店、2014年)


 もっとも、「大学院重点化」以前から博士人材の就職難の問題は存在していました。当時は、オーバードクター(OD)問題と言われていました。(日本科学者会議編『オーバードクター問題 -学術体制への警告』(青木書店、1983年)) 

国立大学法人評価の結果について

 6月、国立大学法人評価委員会から、「第2期中期目標期間(平成22~27年度)の業務の実績に関する評価結果」が公表されました。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/detail/1386169.htm

*評価結果の概要http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/14/1386173_01.pdf


 国公私に限らず全ての大学は、学校教育法に定められた評価(認証評価)を受ける義務がありますが、国立大学は、さらに国立大学法人法に定められた評価(法人評価)を受ける必要があります。その評価結果は、運営費交付金の算定の一部に反映されることになっています。
 また、第3期中期目標期間(平成28~33年度)の国立大学法人運営費交付金の在り方については、その検討結果が「審議のまとめ」として公開されています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/062/gaiyou/1358931.htm


 国立大学法人評価という制度は、独立行政法人通則法を準用したものです。つまり、国立大学法人は、独立行政法人をモデルにしているわけですが、その成否については今も議論があるようです。

 

 国立大学法人の制度設計は、独立行政法人の仕組みをそのまま適用することに慎重な姿勢をうかがうことができます(大学の教育研究の特性への配慮義務など)。しかし、逆の見方をすれば、不適当な部分以外は、独立行政法人の枠組みを踏襲していると言えます。目標管理システムなどは、その最たる例でしょう。

 このような国立大学法人の特徴は、その形成過程を知ることで理解できる部分もあると思います。

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大﨑仁『国立大学法人の形成』(東信堂、2011年)

 

各国の大学入学のための共通テストについて

 日本以外の国々にも、大学進学に際し、共通テストを実施する仕組みがあります。米国のSAT(Scholastic Assessment Test)やACT (The American College Testing Program)、イギリスのGCE(General Certificate of Education)、ドイツのアビトゥーア(Abitur)、フランスのバカロレア(baccalauréat)などです。

 隣国に目を向けると、韓国では大学修学能力試験(修能)、中国では全国高等院校招生統一考試(高考)が実施され、その熾烈な競争や社会的関心の高さが、しばしば日本でも報道されています。

 もちろん、各国の入試制度の違いにより、共通テストの位置づけも大きく異なります。特に注意すべきことは、大学の制度や教育内容、中等教育との接続の仕組みです。
 大学入学後、直ぐに専門教育が行われるヨーロッパでは、イギリスのシックスフォーム(大学への進学を目指すための課程)、ドイツのギムナジウムやフランスのリセの進学準備課程が、それぞれの共通テストの性格と深く結びついています。
 米国では、単位制である高校と、学士課程では主に一般教育(general education)が行われる大学とのマッチングのために独自の入試システムをとっています。大学入試は、選抜のための試験はなく、高校の成績、コミュニティ活動、エッセイ、SATのスコアなどを、それぞれの大学の入学基準やポリシーを踏まえ、総合的に判断して合否が決まります。共通テストの内容も、そのような入試の特質を反映したものとなっています。

*SAT https://www.collegeboard.org/(※SATの主催団体「College Board」)
*ACT http://www.act.org/

 

 大学が岐路に立たされているのは日本だけではありません。各国とも大学の拡張政策が、新たな構造的問題を生じさせていると言えるでしょう。

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潮木守一『世界の大学危機』(中公新書、2004年)

「大学入学共通テスト」の実施方針について

 7月13日、文部科学省から、大学入試センター試験に代わる「大学入学共通テスト(平成33年(2021年)~)」の実施方針について発表がありました。http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/07/1388131.htm

 大学入試センター試験からの主な変更点として、国語及び数学の試験の一部に記述式問題を導入すること、英語の試験に外部検定試験を活用することなどが示されています。他の教科での記述式問題の出題やCBT(Computer Based Testing)の導入などについては、引き続き検討されるようです。

 大学入学共通テストの実施については、大学入試センター試験(平成2年(1990年)~)同様、大学入試センターがその業務を担うことになります。

 大学入試センターは、共通第1次学力試験(昭和54年(1979年)~平成元年(1989年))を実施するために、昭和52年(1977年)に設立された組織です。(この業界ではDNCとも称されます。)
http://www.dnc.ac.jp/


 5月16日に文部科学省から示された「「大学入学共通テスト(仮称)」実施方針(案)」に関しては、国立大学協会日本私立大学連盟、日本テスト学会などから意見やコメントが公表されていました。

 ・国立大学協会の意見(6月14日)
 http://www.janu.jp/news/files/20170614-wnew-teigen.pdf
日本私立大学連盟の意見書(6月9日)   
 http://www.shidairen.or.jp/blog/info_c/academics_c/2017/06/09/21039
・日本テスト学会パブリックコメント(6月13日)
 http://www.jartest.jp/public_comment.html

 

 因みに、日本テスト学会では、以下のとおり年次大会が開催される予定です。

・日本テスト学会〔第15回大会〕
 8月19日(土)、20日(日)東北大学/川内キャンパス
 http://www.ihe.tohoku.ac.jp/jart2017/

 

 大学入試について考えるためには、大学入試の歴史やテストに関する基礎的な理論を知る必要があります。手頃なところで、以下のような本があります。

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繫桝算男編『新しい時代の大学入試』(金子書房、2014年)

 

公認心理師について

 本年9月、新たな国家資格として「公認心理師」の制度が始まります(公認心理師法の施行)。平成30年度から、受験資格取得のためのコースを設置する予定の大学も多いのではないでしょうか。

 http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/kouninshinrishi/

 昨年9月から、公認心理師カリキュラム等検討会(文部科学省厚生労働省)が継続的に開催され、本年6月、その報告書が発表されています。

 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai.html?tid=380707

 なお、民間資格である臨床心理士は、今度も継続される予定です。

 

 大学に限らないことですが、いわゆる心理職の需要は高止まりしたままのようです(もっとも、需要に見合う心理職を雇用できる機関はそう多くはないと考えられます)。

 以下の報告書では、カウンセラー等の専門職の充実に加え、学生支援の3階層モデル(日常的学生支援(窓口業務等)、制度化された学生支援(クラス担任等)及び専門的学生支援(カウンセラー等)の連携)が提言されています。

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『大学における学生相談体制の充実方策について -「総合的な学生支援」と「専門的な学生相談」の「連携・協働」-』(日本学生支援機構、2007年)

大学とICTについて

 大学とICT(情報通信技術)との関係は、今後も深まる一方でしょう。
 平成22年(2010年)、米国のEDUCAUSE(1998年、EDUCOMとCAUSEが統合され誕生)の日本版ともいうべき大学ICT推進協議会(AXIES)が発足しました。
 機関誌『大学教育と情報』を出版している私立大学情報教育協会(JUCE)は、平成4年(1992年)(前身の組織は昭和52年(1977年))に設立されています。

*EDUCAUSE https://www.educause.edu/
*AXIES https://axies.jp/ja
*JUCE http://www.juce.jp/


 ICTの先進地、米国の大学の動向は目を見張るものがあります。
 2003年には、マサチューセッツ工科大学(MIT)が、オープンコースウェア(OCW)を発足させました。OCWとは、授業の資料等(一部には授業のビデオ)をインターネット上で公開する取組です。

 世界トップクラスの大学が参加する公開オンライン講座MOOC(Massive Open Online Course) の動きも活発です。MOOCには多くのプラットフォームがありますが、2012年に設立されたedX(エディックス:MIT、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校等が参加)やCoursera(コーセラ:スタンフォード大学プリンストン大学ミシガン大学等が参加)などが有名です。因みに、2013年、edXには京都大学が、Courseraには東京大学が加盟しました。
 MOOCの日本版JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)も2013年に立ち上がっています。

*edX https://www.coursera.org/
*Coursera https://www.edx.org/
*JMOOC https://www.jmooc.jp/

 

 大学、企業、個人が、それぞれの動機、思惑をもってMOOCに参入する様は、ダイナミックな世界の動きそのもののように感じます。

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金成隆一『ルポ MOOC革命 無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店、2013年)