大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

LMS(学習管理システム)について

 eラーニングというと、学習者が電子化された教材で自習することをイメージされる方も多いかもしれません。
 しかし、今日のeラーニングシステムは、自習用だけではなく、状況に応じた教材の配信、課題の提示・回収、クイズ(小テスト)・試験の成績等の学習者の学習履歴を総合的に管理するなど、学習者と指導者(もしくは学習者同士)の双方向な関わりを重視したシステムに発展しています。(プロセスを含めた学習成果を確認したり、アクティブラーニングのためのツールの1つにしたり、eラーニングの可能性はますます広がっています。)

 このようなシステムは、学習管理システム(LMS : Learning Management System)、コース管理システム (CMS : Course Management System)、仮想学習環境(VLE : Virtual Learning Environment)などと呼ばれています。

 

 LMSの代表的なものとして、Blackbord(WebCT)、eCollege、Moodle、Sakaiなどが挙げられます。

 大学ICT推進協議会(AXIES)の2015年度調査「高等教育機関におけるICT利活用に関する調査研究」によると、現在、Moodleが日本国内の大学で最も利用さてているLMSとなっています。
https://axies.jp/ja/ict/2015
 米国の調査によると(Campus Computing 2015)、米国の大学のLMSの利用状況はBlackbordが1位、Moodleは2位となっています。ただし、Blackbordのシェアは下がり続けているようです。
https://www.campuscomputing.net/content/2015/10/29/the-2015-campus-computing-survey

 

 オープン・ソース・ソフトウェアのLMSの1つにSakai(サカイ)があります。Sakaiとは、日本人の名字のような名称ですが、実際、とある日本人が語源になっています。Sakai1.0は、ミシガン大学のCHEFをベースに開発されたものですが、その当時、米国で人気だった日本のテレビ番組「料理の鉄人」のフランス料理のシェフ坂井宏行氏が有名になっていたため、CHEFにかけてSakaiと命名されました。

 

 eラーニングとLMSに関する書籍の出版が相次いでいます。以下の書籍の冒頭では、MoodleとSakaiについての解説があります。(後半は、eテスティング(testing)の内容に割かれています。)

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赤倉貴子、柏原昭博編著『eラーニング/eテスティング』(ミネルヴァ書房、2016年)

学校基本調査について

 大学関係者にとって5月1日は特異な日と言えると思います。その年度の学生数等の統計をとる際の基準となる日だからです。毎年5月1日付けのデータが学校基本調査に反映されることになっています。

 学校基本調査とは、文部科学省が学校(学校教育法で規定されている学校)の基本的事項に関して行う調査で、昭和23年から継続して実施されています。法令の根拠としては、平成21年(2009年)に施行された統計法(平成19年に旧統計法(昭和22年)の全部を改正したもの)に基づいていますhttp://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 現在、地区ごとに平成30年度の学校基本調査の説明会が開催されています。

 

 学校基本調査が開始されるまで全国的な統計情報が存在しなかったというわけではありません。明治8年(1875年)から毎年、文部省の所管事項に関する統計資料を収録する「文部省年報」が発刊されており、学校基本調査以前の情報を参照するのに便利です。

 

 学校基本調査の統計データはウェブページでの公開だけではなく、冊子として販売もされています。個人で買う人はほとんどいないと思いますが、大学の事務室等には置いてあるはずです。手に取ってみると、どのようなことが調査の対象となっているのか、またどのような結果がでているのか、その概要を知ることができます。

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『平成28年度学校基本統計 学校基本調査報告書(高等教育機関編)』(文部科学省、2016年)

6月の学会(大学教育関係)について

 6月上旬、大学教育に関する2つの学会の年次大会が開催されます。両大会とも教員・研究者だけではなく、職員・実務者の参加も増えているようです。非会員の参加も可能です。(因みに、筆者は高等教育学会に参加します。)

・高等教育学会〔第21回大会〕
 6月2日(土)、3日(日)桜美林大学/町田キャンパス
 http://www.jaher21obirin.com/

・大学教育学会〔第40回大会〕
 6月9日(土)、10日(日)筑波大学/筑波キャンパス
 http://daigakukyoiku-gakkai.org/site/conference/conferenceinfo/

 

 

 高等教育学会と大学教育学会については、昨秋、このブログでも紹介しました。

大学設置基準の改正(専門職学科の制度化)について

 今年1月、専門職大学の制度化を受け、既存の大学に「専門職学科」(専門職学科のみで構成される学部は「専門職学部」)を設置するための特例が、大学設置基準のなかに盛り込まれました(平成31年4月施行)。

http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senmon/1401368.htm

 

 この措置は、平成28年(2016年)の中央教育審議会答申「個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」において、新たな教育機関は「既存の大学・短期大学と並んで、独立した組織として設置される」とともに「既存の大学・短期大学が、一部の学部や学科を転換させる等により、新たな機関を併設できるように」するとの提言を受けたものと考えられます。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1371833.htm

 

 

  専門職大学については、このブログでも度々ふれてきましたが、平成31年度開学に向けて、専門職大学13校(同一法人による5校を含む。)、専門職短大3校が設置申請を行っています。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/attach/1399756.htm

 

 

 専門職大学の創設に当たっては、議論が錯綜し、新しい高等教育機関を創設する根拠が分かりにくいとの声もあります。今回、大学に専門職学科が”併設”できることになり、専門職大学の特質は、ますます曖昧になったとも思えます。

 「新たな教育機関」をめぐる議論の展開は、以下の論文で勉強させてもらいました。書籍ではありませんが、ウェブ上に公開されているので挙げておきます。

 

小林信一「大学教育の境界 ―新しい高等職業教育機関をめぐって―」(『リファレンス(国立国会図書館)』785号、2016年)
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9998197_po_078502.pdf?contentNo=1&alternativeNo=

日本私立学校振興・共済事業団について

 先日、私立大学等経常費補助金について書きましたが、補助金の配分基準の策定や交付手続き等の業務を行っているのは、日本私立学校振興・共済事業団です。
http://www.shigaku.go.jp/

 

 日本私立学校振興・共済事業団は、私学事業団と略称されます。私学事業団の前身は、大正13年設立の私立中等学校恩給財団まで遡ることができますが、直接的には、平成10年(1998年)、日本私学振興財団私立学校教職員共済組合が統合されたことで誕生しました。

 私学事業団の業務は、その設立の経緯からも分かるように、助成事業と共済事業からなっています。

カーネギー分類について

 昨日の記事で「研究大学」という言葉を用いましたが、大学を機能別に分類する方法として、米国のカーネギー教育振興財団 (CFAT:Carnegie Foundation for the Advancement of Teaching)によるカーネギー分類(Carnegie Classifications)が有名です。
 http://carnegieclassifications.iu.edu/

 

 2015年版のカーネギー分類によると、米国の大学は、博士号授与大学(Doctoral Universities)、修士号授与大学(Master's Colleges & Universities)、学士号授与大学(Baccalaureate Colleges)、学士号・準学士号授与大学(Baccalaureate/Associate's Colleges)、準学士号授与大学(Associate's Colleges)、2年制専門大学(Special Focus Two-Year)、4年制専門大学(Special Focus Four-Year)、先住民大学(Tribal Colleges)に分類され、その下にさらに詳細な分類が続きます。

 博士号授与大学は、「Highest Research Activity」、「Higher Research Activity」、「Moderate Research Activity」に三分され、そのうち「Highest Research Activity」には機関数にして115、割合にして2.5%が分類されています。

 ここでの博士号授与大学の多くが、旧版のカーネギー分類では研究大学(Research Universities)とされており、博士号授与大学もしくはそれに相当する大学を、一般に研究大学とよんでいます。

 

  以下の書籍では、米国の大学制度から慣行にいたるまで、その特質を解説し、米国の多様な大学の世界を描いてあります。

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谷聖美『アメリカの大学』(ミネルヴァ書房、2006年)

分野別世界大学ランキング(QS)について

 英国QS(Quacquarelli Symonds)社による分野別の世界大学ランキング(2018年版)が発表されています。
https://www.topuniversities.com/subject-rankings/2018

 

 日本が比較的得意とされる物理学や化学の分野では、以下のような大学名があがっています。

 物理学・天文学:東大9位、京大17位、東工大26位、東北大35位、阪大37位、51-100位に名大
 化学:東大8位、京大16位、阪大29位、東工大31位、51-100位に北大、九大、名大、東北大
 化学工学:京大5位、東大9位、東工大20位、阪大34位、東北大46位、51-100位に北大、九大、名大

 

 このランキングに登場する日本の大学の多くは、「RU11(学術研究懇談会)」を形成する大学で、日本の代表的な研究大学(Research University)であるとされています。RU11は、「国家の成長発展の鍵を握る研究大学の充実強化策について議論し、大学相互の連携を深める」ことを目指し、平成21(2009)年に発足しました(当初は9大学)。

 http://www.ru11.jp

 

 世界の大学ランキングの常連校が紹介された書籍を読むのは、大学がもっている可能性に目を見開かされ、興味深いものです。

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古郡悦子『リアルタイムMIT』(東京化学同人、1995年)

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林幸秀『北京大学清華大学』(丸善プラネット、2014年)

私立大学等経常費補助金について

 今月、日本私立学校振興・共済事業団から、平成29年度の私立大学等経常費補助金の交付状況が公表されました。
http://www.shigaku.go.jp/s_kouhujoukyou.htm

 

 私立大学等経常費補助金は、昭和45年(1970年)から開始されましたが、昭和50年には、私立学校振興助成法が成立し(昭和51年4月施行)、私学助成の法的根拠が整備されました。同時に、経常費補助金は、「一般補助」と「特別補助」から構成されることになりました。

  現在、私立大学等における経常的経費のうち経常費補助金額の占める割合は、凡そ10%前後の水準を推移しています。

 

  以下の書籍は、主に私立大学の職員を対象に、学校法人や教育関係に関する法令、学校法人会計、補助金、大学改革の動向などの基礎的な知識をまとめた入門書です。

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『即解 大学教職員の基礎知識 ー平成28年改訂版-』(学校経理研究会、2016年)