大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

「教育関係共同利用拠点(FD・SD関係)」の認定について

 昨年、「教育関係共同利用拠点」について紹介しましたが、今月、今年度の拠点の認定について発表がありました。
 「大学の職員(教員を含む。)の組織的な研修等の実施機関」としては、熊本大学教授システム学研究センターのほか3大学が認定(再認定を含む。)を受けました。http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakukan/1409419.htm

熊本大学教授システム学研究センター
 http://www.rcis.kumamoto-u.ac.jp/ja/home/

 

キャリア教育について

 前回、「大学生のキャリア意識調査」について書きましたが、大学でキャリア教育が義務化されたのは、平成23年(2011年)の大学設置基準の改正によるものでした。すなわち、大学設置基準に以下の条文が加えられました。

 

(第42条の2)
 大学は、当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ、学生が卒業後自らの資質を向上させ、社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適切な体制を整えるものとする。

 

 もっとも、キャリア教育の義務化とは、キャリア関連の授業科目の開設を義務付けるものではなく、肝心なことは、それぞれの大学や学部等の目的に応じたキャリア教育を教育課程のなかに適切に位置づけ、展開することにあります。

 

 そもそも、日本の教育行政において、キャリア教育が取り上げられたのは、中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11 年12 月16日)からだとされています。その後、中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23 年1月31 日)において本格的に論じられました。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1301877.htm

 そのなかで、キャリア教育とは「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義されています。

 

 キャリア教育に関連する学会として、日本キャリア教育学会があります。この学会は、昭和53年(1978年)に設立された日本進路指導学会(前身は日本職業指導学会)が、平成17年(2005年)に現名称に変更されたものです。なお、 年次大会が以下のとおり開催されます。

 

・日本キャリア教育学会〔第40回研究大会〕
 12月7日(金)~9日(日)早稲田大学早稲田キャンパス
 https://jssce.jp/c2018/

 

 以下の書籍は、必ずしもキャリア教育をテーマにしたものではありませんが、P&G、デュポン、3M等の世界を代表する化学企業の人材育成、マーケティング、企業経営等の強みや特徴が描かれており、日本国内で展開されているキャリア教育に何らかの示唆を与えてくれるような気がします。(同時に化学産業の構造や歴史の知識を得ることもできます。)

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田島慶三『世界の化学企業 グローバル企業21社の強みを探る』(東京化学同人、2014年)

「大学生のキャリア意識調査」について

 電通育英会京都大学高等教育研究開発推進センターは、大学生の生活実態やキャリア意識などに関する全国調査「大学生のキャリア意識調査」を、平成19年(2007年)から3年おきに実施しています。報告書をウェブ上で読むことが可能で、現代の学生の実態や傾向を垣間見ることができます。

https://www.dentsu-ikueikai.or.jp/transmission/investigation/about/

 今度、その内容が、著書(溝上慎一『大学生白書2018  ーいまの大学教育では学生を変えられない』(東信堂))にまとめられ、出版されました。

 

 いわゆる「学生論」は、いつの時代にも存在したようで、昭和15年に出版された以下の書籍の編者は、「明治の學生は尊敬され、大正の學生は恐れられ、今日の學生は軽蔑される」として、特別な存在ではなくなった”現代”學生の危機(最大の関心事は就職であり、老年期の精神へと後退していると指摘)だと問題提起しています。

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室伏高信編『現代學生は何を為すべきか』(四谷書房、1940年)

「学校法人運営調査における経営指導の充実について(通知)」について

 7月30日付けで、文部科学省高等教育局長から文科大臣が所轄する学校法人理事長宛てに「学校法人運営調査における経営指導の充実について」と題する通知がありました。

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1408727.htm

 この通知は、経営が悪化した私立大学への指導を強化する方針を示したもので、経営指導の具体的内容に踏み込むものとなっています。

 

 経営指導の必要性に関しては、これまでも、中央教育審議会大学分科会将来構想部会「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ(平成30年6月28日)」等において提言されています。

新構想大学について

 昨日、図書館情報大学について書きましたが、現在、図情大は筑波大学の一部局(春日エリア)となっています。筑波大学の設立は、昭和48年(1973年)の10月ですから、来月で45年周年を迎えます。いわゆる「新構想大学」の代表的な存在の筑波大学も半世紀近くの歩み重ねたことになります。

 

 新構想大学とは、既存の大学の自主的な改革を促すことを目的の一つにして、教育研究、管理運営等の面で従来の大学の仕組みにとらわれない新しい試みを取り入れて誕生した大学群のことです。その多くが大学紛争期以降の1970年代に設立されています。

 具体的には、筑波大学図書館情報大学のほか、長岡及び豊橋の技術科学大学、新規の教育大学(兵庫、上越、鳴門)などです。無医大県解消のために、既存の大学に医学部を設置するのではなく、新たに創設された単科の医科大学の多くも新構想大学です(浜松、滋賀ほか)。

 

 筑波大学東京教育大学を母体として設立されましたが、制度的には両者に連続性はありません。とは言え、東京教育大学の前身の東京高等師範学校以来の「教育の総本山」としての伝統は筑波大学にも継承されています。

 以下の書籍は、教科書裁判でも有名な歴史家による東京教育大学回顧録です。

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家永三郎東京教育大学文学部 栄光と受難の三十年』(現代史出版会、1978年)

図書館情報学について

 かつて、図書館情報大学という大学が存在したことを覚えている人も多いことと思います(平成14年、筑波大学と統合)。この大学名によって、図書館情報学という専門分野の認知が一般にも広まった面があるのではないでしょうか。

 この秋、図書館情報学会の年次大会が以下のとおり開催されます。

 

日本図書館情報学会〔第66回研究大会〕
 11月3日(土)、4日(日)琉球大学/千原キャンパス
 http://jslis.jp/events/annual-conference/

 

 図書館に関する研究団体としては、他に、昭和21年(1946年)に設立された日本図書館研究会があります。

http://www.nal-lib.jp/index.html

 

 ある専門分野を初めて学ぼうとするとき、放送大学のテキストを入門書として活用するという方法があります。以下の書籍では、学習・情報センターとしての学校図書館の機能に焦点をあて、情報リテラシー教育の基本を解説してあります。

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 堀川照代、塩谷京子『学習指導と学校図書館』(放送大学教育振興会、2016年)

高等教育論のリーディングリスト(現代の古典)について

 社会人になると十分な夏季休暇を取ることは難しいものですが、休みのあいだに是非この本を読みたいと考えている人も多いのではないでしょうか。

 高等教育に関わる教職員が読んでおいた方がいいと思われる本、現代の古典として支持を集めるだろうと予想される本について考えてみました。私見ですが、以下のような本がその候補にあがるのではないかと思います。

 

・マーチン・トロウ『高学歴社会の大学 ―エリートからマスへ』(東京大学出版会、1976年)
・ジョセフ・ベン=デビッド『学問の府 ―原典としての英仏独米の大学』(サイマル出版会、1982年)
・ロバート・バーンバウム『大学経営とリーダーシップ』(玉川大学出版部、1992年)
・バートン・R.クラーク『高等教育システム ―大学組織の比較社会学』(東信堂、1994年)

 

 高等教育論には様々な問題領域や分析方法があるため、ディシプリンとして明確化することは容易ではなく、リーディングリストを作成することは案外難しいのです。

  本文中には挙げませんでしたが、フランスの社会学ピエール・ブルデュー(1930-2002)の著書を挙げるひともいるかもしれません。以下の書籍は、彼の初期の著作です。

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 ブルデュー、パスロン『遺産相続者たち ー学生と文化』(藤原書店、1997年(原著1964年))

民間の英語認定試験の大学入学共通テストへの活用について

 先月、東京大学の学内ワーキンググループから、大学入学共通テストで導入される民間の英語認定試験の取り扱いについて慎重な姿勢が表明されました。東大の最終決定ではありませんが、民間試験を大学入学共通テストで活用することに各所で懸念が示されているなかでの東大の動きであり、大学業界では話題になりました。

https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_admission_method_02.html

 

 平成33年度入学者から適用される大学入学共通テストでは、民間の英語認定試験の活用が明示されていますが、東大の最終的な判断を注視している大学も多いのではないでしょうか。

 昨年のこのブログでも書きましたが、大学入学共通テストでは、記述式問題の導入と英語の民間試験の活用が目玉であり、同時に、実施に向けての大きな課題にもなっているようです。

 

 つまるところ、高大接続の問題は入試改革に集約されてしまうことは避けられないのでしょうか。近年、その入試改革は政治主導で方向づけられる傾向が強まっているようにも感じます。

 以下の書籍では、高校や大学から、研究者からなどの多様な立場で、英語の民間試験、特にスピーキング試験の大学入学共通テストへの導入について論じています。

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南風原朝和編『検証 迷走する英語入試』(岩波書店、2018年)