大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

学生納付金と大学の財務について

 新型コロナウイルス感染症の影響により、各大学は授業開始時期の延期やオンライン授業への切り替え、図書館等の施設利用の制限等の対応を実施しています。それらの措置に対し、学生や保護者から学生納付金(特に、施設設備費 、教育充実費等の名目のもの)の減額や返還を求める声があがっていることが報道されているようです。

 

 このような動きに対し、日本私立大学連盟、日本私立大学協会それぞれから、政府に対し要望が出されています。

新型コロナウイルス感染症拡大による大学への影響に係る緊急要望(私大連)
 https://www.shidairen.or.jp/files/user/20200428kinkyuyobo.pdf?fbclid=IwAR0XtBa0h4cwbWGFYmbzeE6bISwp4i0F_vKEhlyJJwuye7psYZqYESgLXR8

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う私立大学に対する支援要望(私大協)
 https://www.shidaikyo.or.jp/topics/pdf/200501shidaikyo.pdf

 

 そもそも、私立大学の学生納付金には、授業料のほか、施設設備費 、教育充実費、実験実習費等が含まれます。しかし、その内訳に厳密な基準があるわけではなく、入学金を除くと、学生納付金は一般的な意味での授業料としてひとまとめに扱っている大学が大多数だと思います。
 また、学生納付金は前納制で基本的に返還されないことになっており、そのことが大学の財務の安定に貢献していると言えます。

 今回の感染症拡大の影響は、教育の質の保証の問題だけではなく、大学の財務の問題も浮き彫りにすることになるかもしれません。

 

フルブライト奨学金について

 近年新たに設置された学部や学科のなかには、留学体験を義務付けたカリキュラムを編成したところも多いようです。新型コロナウイルス感染症の拡大により、留学を伴うカリキュラムの運営に苦心する関係者も多いことと思います。

 

 このような時期ではありますが、2021年度のフルブライト奨学生の募集が行われれいます(5月31日まで)。
https://www.fulbright.jp/scholarship/index.html

 

 今日では多くの留学奨学金制度が創設され、今でこそフルブライト奨学金の相対的地位は低下したかもしれませんが、それでも未だその知名度は高いものがあります。

 フルブライト奨学金は、米国の上院議員ウィリアム・フルブライト(1905-1995)の発案によるもので、1946年に始まりました。米国と諸外国との相互留学と国際親善を米国政府の資金により実施するものです。日本では、ガオリア資金(占領地域救済政府資金)による留学プログラムを継承するかたちで、昭和27年(1952年)に始まっています。フルブライト奨学生(フルブライター)のなかから多くの著名人が誕生し、フルブライト奨学金は国際奨学金の代表的存在となりました。

 日米教育委員会が設置された後は(1979年~)、米国だけではなく日本も費用を分担するようになり、今日まで存続しています。

授業目的公衆送信補償金制度について

 新型コロナウイルス感染症の影響を懸念して、対面での授業を避け、ICTを活用した遠隔授業の導入を図る大学が急増しています。

 遠隔授業のハードルの一つとされるのが著作権の問題です。その解決策の一つとして、平成30年(2018年)に著作権法が改正され、その際、授業目的公衆送信補償金制度が公布日(2018年5月25日)から3年以内に施行されることが決まりました。

 授業目的公衆送信補償金制度とは、授業の課程で著作物の公衆送信を行う際、教育機関が指定管理団体に一定の補償金を支払えば、著作物を適法に利用できるようになる制度です。

*授業目的公衆送信補償金制度
 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00395.html

 

 現在、著作権の改正から2年になろうとしていますが、授業目的公衆送信補償金制度は開始されていません。先日、国立の7大学と国立情報学研究所が連名で、補償金制度の早期実施に関して、文化庁および授業目的公衆送信補償金等管理協会に対し要望書が出されました。
 https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400137295.pdf

*一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)
 https://sartras.or.jp/

 

≪追記(2020,4/6)≫
 SARTRASから、令和2年度の特例として、授業目的公衆送信補償金制度施行のための補償金の「無償」による認可申請を決定したとの発表がありました。
https://sartras.or.jp/archives/20200406/

 

国立大学法人ガバナンス・コードについて

 先月末、文部科学省内閣府国立大学協会三者から、国立大学法人ガバナンス・コードが公開されました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/mext_00611.html

 

 本文中にもありますが、策定に文部科学省内閣府が関わっている背景には、「統合イノベーション戦略(平成30年6月15日閣議決定)において、「内閣府(科技)及び文部科学省の協力の下、国立大学等の関係者は、大学ガバナンスコードを2019年度中に策定」するこことされた」ためです。

 

「令和2年度における大学等の授業の開始等について(通知)」について

 新型コロナウイルス感染症の影響拡大に伴い、大学での授業の実施、学事日程、授業方法(遠隔授業)等に関して、3月24日付けで、文部科学省から通知(「令和2年度における大学等の授業の開始等について」)がありました。

https://www.mext.go.jp/content/20200324-mxt_kouhou01-000004520_4.pdf

 

 前回のブログで授業の実施期間(週)について書きましたが、この通知では、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、「学修時間を確保するための方策を大学等が講じていることを前提に、10週又は15 週の期間について弾力的に取り扱って差し支えない」ことが示されています。

 

 今回の通知は、感染拡大の防止を踏まえた大学の対応等に関するものですが、そのために大学に関連する法令の変更があるわけではありません。この通知を読むことで、改めて様々な法令の理解を深める機会にもなりますし、各大学の学則や規程等を見直す契機にもなると思います。

授業の実施期間(週)について

 前回に続き、学修時間の確保に関する話題です。

 今回は実際に授業を実施する期間(週)を採りあげたいと思います。2学期(セメスター)制をとっている大学であれば、定期試験期間を除いた授業期間を15週確保することになっていると思います。特に10年ほど前から、このことが厳密に適用されるようになりました。

 その切っ掛けとされるのが、前回も言及した中央教育審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』(平成20年)での「講義であれば1単位当たり最低でも15時間の確保が必要とされる。これには定期試験の期間を含めてはならない」という文言です。しかし、ここでは定期試験は授業時間(15時間以上)に含めてはならないとされているだけで、授業の期間に関しては何もふれられていません。(もちろん、週1回1時間の授業であれば15週が必要になります。ただ、この答申の文言を15週授業の徹底の根拠とするのは、個人的には少し無理があるように思います。)

 

 授業期間について、大学設置基準では、以下のとおり規定されています。

(各授業科目の授業期間)
第二十三条  各授業科目の授業は、十週又は十五週にわたる期間を単位として行うものとする。ただし、教育上必要があり、かつ、十分な教育効果をあげることができると認められる場合は、この限りでない。

 また、第23条の直前の第22条には1年間の授業期間も説明されています。

(一年間の授業期間)
第二十二条  一年間の授業を行う期間は、定期試験等の期間を含め、三十五週にわたることを原則とする。

 つまり、これらを合わせて解釈すると、定期試験期間等を除いた授業期間を年間30週確保することを前提に、授業は2学期であれば15週(3学期であれば10週)にわたることを基本としつつ、必要に応じて、4学期やその他の多様な授業形態を認める、ということになるかと思います。

 このことから、やはり授業を15週実施することは大原則と言えると思います。

 

 昨今、1回の授業時間を15分、10分増やし、13週、14週の授業期間を採用する大学が見受けられます。これはトータルの授業時間を満たすことを条件に授業期間を柔軟に設定(短縮)できるという解釈に基づいているようです。

 しかし、単位について示された大学設置基準第21条(1単位45時間の学修時間、授業15時間以上)を満たせば、第22条や第23条を満たさなくてよいという理解がはたして可能なのかどうか、個人的にはやや疑問です。

 また、13週や14週の際に使用される授業時間は1時間(60分)を45分とする大学独自の解釈に基づくもので、その不確かな前提を拠り所に、別の規定を解釈し直すということは「逸脱の常態化」をまねく懸念もあるのではないかと思います。

 

 第23条のただし書の部分は、平成25年に改正されたもです。それまでは「教育上特別の必要があると認められるときは、これらの期間より短い特定の期間において授業を行うことができる」とされていました。

 この改正によって(「教育上特別の必要がある」という要件の緩和)、多用な授業形態、例えば、週2回授業で1/2学期で終了するもの(いわゆるクォーター制)、10週の講義と特定の日に行うフィールドワークを組み合わせたもの、1.2時間の講義の13週実施(1単位)など「教育上必要があり、かつ、十分な教育効果をあげることができると認められる場合」は柔軟な運用が認められたと考えられています。
 しかし、中央教育審議会大学分科会の議論でも「引き続き、授業期間の原則は10週又は15週とする」ことが確認されており(そもそも第23条の前半部分は改正されていません)、大学の全授業期間を一律に13週や14週に短縮することを正当化する明確な根拠は乏しいように感じます。(45分や50分を1時間とする解釈は許容範囲とされることはあっても、50分を1.1時間という解釈は、もはや・・・)

 

 歯に衣着せぬ言い方をすれば、授業期間短縮の動きは、教育効果のためではなく、大学が15週の授業期間の確保に四苦八苦している(祝日に授業日を設定する、夏季休暇を短縮するなど)ためであることは明白です。

 より根本的な問題は、大学設置基準は「大学を設置するのに必要な最低の基準」とされているものの、実際には最高の基準になっているという現実です。(実施が難しいから設置基準の規定を改正するというのは筋が通りません。その一方、実態とあわない規定が「最低の基準」とされた大学側は、無理な解釈を施し、対策を講じざるを得ないことも現実にあるでしょう。)

 中央教育審議会答申『2040年に向けた高等教育のグランドデザイン』(平成30年)でも大学設置基準の抜本的見直しが提言されています。設置基準の見直しの内容に期待している大学人も多いと思います。

定期試験と学修時間について

  新型コロナウイルス感染症の影響で、新学期の開始を遅らせることを想定している大学も多いことと思います。その際に問題となるのが、単位修得に必要な学修時間の確保です。今回の事態では、特例として扱うケースも多いと思いますが、あらためて単位の計算、ここでは一つの観点、定期試験の時間について考えてみたいと思います。

 

 1単位45時間の学修は、授業(15時間以上)と授業外の学修時間で構成されることはよく知られていると思います。それでは、定期試験の時間やそのための準備はどのように位置づけられるのでしょうか。

 中央教育審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』(平成20年)のなかで、「講義であれば1単位当たり最低でも15時間の確保が必要とされる。これには定期試験の期間を含めてはならない」とされています。

 定期試験は授業時間(15時間以上)に含めてはならないとされていますが、45時間の学修量に含めることを何ら否定しているものではありません。つまり、定期試験はその目的、内容、効果などを考慮して、単位に関わる学修時間と考えることが可能ではないでしょうか。

1単位:45時間の学修=授業(15時間以上)+授業時間外の学修(予習・復習、課題、定期試験等)

※上記の解釈が間違っているという根拠があれば、ぜひ個人的にご教示ください。

 

 単位の実質化に関する学生の学修時間の調査(アンケート)の際、授業時間外の学修の例示に予習・復習、課題だけではなく、定期試験やそのための準備時間も含めるとトータルの学修時間は増加するのではないでしょうか。(もちろん、授業回ごとの予習や復習が重要であることに変わりありません。)

 

 ここで、大学設置基準で単位の考え方を確認したいと思います。

(単位)

第二十一条  各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。

2  前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。

一  講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。

二 <以下省略>

 また、授業期間に関しては

(一年間の授業期間)
第二十二条  一年間の授業を行う期間は、定期試験等の期間を含め、三十五週にわたることを原則とする。

とあり、定期試験は広義の「授業を行う期間」に含まれるので、この点からも定期試験を学修時間とすることができると思います。注意が必要なのは、答申では、定期試験を授業時間(15時間以上)に含めてはならないとしていますが、授業期間に含めることは否定していないということです。

国公立大学の入試日程について

 明日3月8日、国公立大学の中期日程の試験が行われます。とは言え、中期日程を設定している国立大学はなく、一部の公立大学で行われる試験日程です。

 国立大学と公立大学の入試種別ごとの募集人員の割合(%)は以下のとおりです(令和2年度)。

      前期 中期 後期  AO 推薦 その他
 国立大学 67.1     14.9  4.9 12.8   0.4
 公立大学 51.7  7.5   11.4     3.0 25.9   0.5

※令和2年度国公立大学入学者選抜の概要(文部科学省)から
 https://www.mext.go.jp/content/191226-mxt_daigakuc02-100001376_1.pdf

 

 国公立大学の入試日程は、前期入試は2/25から、中期は3/8以降、後期は3/12以降となっており、AO入試の出願期間は原則8月以降、推薦入試は11月以降とされてます。(国際教養大学のように独自日程で入試を行う大学もあります。)

  国公立大学とひとくくりにされることもある国立大学と公立大学ですが、両者は制度的に異なる点が多くあります。ただし、入試に関しては基本的には足並みを揃えています。それでも、公立大学は独自の中期入試の実施や推薦入試枠の割合などで特徴を出しています。

 また、公立大学は、入学料が「地域内」や「地域外」で差があるのも一般的です。https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/10/23/1284481_09.pdf