大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

「大学入学者選抜実施要項」について

 今月19日、文部科学省から「令和3年度大学入学者選抜実施要項」が公表されました。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/mxt_kouhou02-20200619_1.pdf

 新型コロナウイルス感染症の影響で、高等学校の多くが長期の休校を余儀なくされたため、その内容が注目されました。

 

 今年は俄かに注目された「大学入学者選抜実施要項」ですが、毎年(6月上旬頃)、文部科学省から公開されているものです。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/index.htm

 過去の大学入学者選抜実施要項をたどると入試の変遷をみてとることができます。例えば、推薦入試は、昭和42年(1967年)の入学者選抜実施要項に初めて公式に記載されています(それ以前から、推薦入試を行う大学はあったとされていますが)。新制大学発足直後、昭和24年(1949年)6月の「昭和25年度新制大学及び旧制専門学校等への入学者選抜実施要項」では、進学適性検査(知能検査)を実施する旨が記載されています。

 

「新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえた大学等の授業の実施状況」について

 6月5日、文部科学省から「新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえた大学等の授業の実施状況」の調査結果が公表されました。
https://www.mext.go.jp/content/20200605-mxt_kouhou01-000004520_6.pdf

 それによると、大学・短大・高専約1000校の授業の実施方法は、おおよそ1割の学校が面接(対面)授業、6割が遠隔(オンライン)授業、3割がそれらの併用となっているようです(6月1日時点)。

 

 あわせて、「大学等における新型コロナウイルス感染症への対応ガイドラインについて」も公表されています。
 https://www.mext.go.jp/content/20200605-mxt_kouhou01-000004520_5.pdf

大学審議会について

 前回の記事の最後にふれた大学審議会について書きたいと思います。

 昭和61年(1986年)の臨時教育審議会第二次答申において「我が国の高等教育の在り方を基本的に審議し、大学に必要な助言や援助を提供し、文部大臣に対する勧告権をもつ恒常的な機関としてユニバーシティ・カウンシル(大学審議会-仮称)を創設する」との提言があり、その直後、文部省は大学改革協議会を設け、具体化の検討を行いました。
 これらのことを受け、学校教育法の改正(昭和62年)により、文部省に大学審議会が置かれ、(大学)設置基準や学位に関する事項を定める場合は、大学審議会への諮問が義務付けられることになりました。

 

 大学審議会は、その設置期間中(1987-2001)に多くの答申や報告(26件の答申、2件の報告)を出しています。概要は、以下のウェブページから確認できます。https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/attach/1411733.htm

 特に、平成3年(1991年)2月8日には同時に5件の答申が出され、大学設置基準の大綱化、自己点検・評価システムの導入、学位授与機構(現大学改革支援・学位授与機構)の創設などにつながっています。

 今日に繋がる大学改革の嚆矢とも言われる大学設置基準の「大綱化」とは、大学審議会答申「大学教育の改善について」のなかで言及された用語になります。

 

 大学審議会は、平成13年(2001年)の省庁再編に伴う審議会等の整理統合のために廃止され、その機能は中央教育審議会大学分科会に引き継がれることになりました。

 

  本文中で言及した平成3年2月8日の5件の答申は、以下の書籍で確認することができます。大学審議会の答申や関係資料を掲載したシリーズの第1巻です。

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高等教育研究会編『大学の多様な発展を目指してⅠ-大学審議会答申集』(ぎょうせい、1991年)

臨時教育審議会について

 前回、臨時教育審議会(臨教審)にふれましたので、その説明をしたいと思います。臨教審は、中曽根康弘首相(当時)によって、首相直属の審議会として昭和59年(1984年)に設置されたもので、主要な審議事項ごとに以下の4つの部会が置かれました。昭和62年までに第1~4次答申が首相に提出されています。

 第一部会:二十一世紀を展望した教育の在り方
 第二部会:社会の教育諸機能の活性化
 第三部会:初等中等教育の改革
 第四部会:高等教育の改革

 臨教審の議論では、教育の「自由化」や「個性化」がテーマとなり、新自由主義的な教育改革を方向付けることになったとされています。もっとも、審議会内部での意見の相違などもあり、自由化の具体的な提案は控えられ、個性重視、生涯学習、国際化・情報化等への対応を中心に答申がまとめられました。

 

 高等教育に関係するところでは、共通一次試験の廃止(大学入試センター試験への組み換え)や大学審議会 (1987-2001)の設置等が、臨教審の答申に基づいて実現されることになりました。

 

 臨教審解散の約30年後、当事者(元文部省職員)による資料、回想等を収集した書籍です。公式な文書からは理解が難しい政策提言に至る経緯や背景を垣間見ることができると思います。

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渡部蓊編著『臨時教育審議会 こぼればなし』(クロスカルチャー出版、2019年)

秋入学について(臨教審での議論)

 新型コロナウイルス感染症の影響で、小・中・高等学校の休校が長引くなか、にわかに9月(秋)入学の議論が起こっているようです。

 ご存知(ご記憶)の方も多いと思いますが、秋入学の検討は、その時々で発端となる出来事は異なりますが、歴史的に何度も繰り返されてきたことではあります。そのなかでも臨時教育審議会(1984-1987)による検討や提言は有名です。

 

 臨時教育審議会(臨教審)の第四次答申(昭和62年8月)では、①より合理的な学年暦への移行と学校運営上の利点の視点(学年の終わりに夏休みとするカリキュラム上および運営上のメリット)、②国際的に開かれた教育システムの視点、③生涯学習体系への移行の視点(学校とは別の教育機会の活用や学校の役割の見直し)の3点から秋入学の意義を説明し、その移行に向けて、諸条件の整備に努めるよう提言しています(ただし、直ちに秋入学へ移行することには慎重)。

 答申でも移行方式は検討されていますが、秋季入学研究会(代表:沖原豊)による『秋季入学に関する研究調査(昭和61年12月)』に詳しく説明されています。ここでは、移行方式(学年進行による移行方式(1.5倍入学(半年繰り下げ・繰り下げ入学)、新入生漸次受入方式、半年入学待機方式)、一斉移行による移行方式(教育期間短縮方式、半年入学待機、卒業・修了延期方式))の検討に加え、移行経費も算出してあり、秋入学への移行の経費は、最大で1兆8千億円(当時)と見積もられています。
 上記の研究調査は、臨時教育審議会編集『秋季入学に関する研究(秋季入学研究会報告書)』(第一法規、1987)として出版されています。因みに、目次は以下のとおりです。目次から秋入学移行の課題が垣間見えるように感じます。

 第1章 入学時期の変遷状況
 第2章 国民の学校暦観・季節観
 第3章 児童・生徒等の心身への影響
 第4章 学校の年間教育計画との関係
 第5章 夏休みの位置づけ
 第6章 入試との関係
 第7章 会計年度と学年度
 第8章 国際交流上の利点と問題点
 第9章 学生の就職、教員の人事異動・研修
 第10章 移行方法
 第11章 移行経費
 第12章 諸外国の学年始期の現状
 第13章 諸外国の学年始期の設定理由
 第14章 諸外国の学年始期変更の実際

学納金返還請求訴訟について

 前回、学生納付金(学納金)について言及し、学納金は基本的に返還されないことになっていると説明しました。もっとも、入学前の段階では幾分事情が異なります。

 学納金の返還をめぐって大きな転機となったのが、学納金返還請求訴訟に関する平成18年(2006年)の最高裁判所判決です。

 

 通常、受験生が入学試験に合格し、その大学への入学を希望すると、入学前に入学金や授業料(半年分もしくは1年分)等の学納金を納めます。従前は、入学を辞退しても支払った学納金は返還されないものでした。

 しかし、上記の最高裁判決では、入学の意思の撤回があれば(原則3月31日まで)、大学は入学金以外の学納金(授業料等)を全額返還しなければならないとされました。この判決には、平成13年(2001年)の消費者契約法施行の影響があったとされています。

 入学金が返還されないのは、入学金が入学手続きの手数料や入学できる地位獲得の契約金と解釈されたためです。授業料等の学納金は、教育サービス(授業、施設利用等)全体に対する対価であり、入学辞退によって大学は損害を受けず、授業料等は返還しなければならないと判断されました。

 

 なお、この判決は、いわゆる在学契約という考え方が広く知られる契機になったとされています。

学生納付金と大学の財務について

 新型コロナウイルス感染症の影響により、各大学は授業開始時期の延期やオンライン授業への切り替え、図書館等の施設利用の制限等の対応を実施しています。それらの措置に対し、学生や保護者から学生納付金(特に、施設設備費 、教育充実費等の名目のもの)の減額や返還を求める声があがっていることが報道されているようです。

 

 このような動きに対し、日本私立大学連盟、日本私立大学協会それぞれから、政府に対し要望が出されています。

新型コロナウイルス感染症拡大による大学への影響に係る緊急要望(私大連)
 https://www.shidairen.or.jp/files/user/20200428kinkyuyobo.pdf?fbclid=IwAR0XtBa0h4cwbWGFYmbzeE6bISwp4i0F_vKEhlyJJwuye7psYZqYESgLXR8

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う私立大学に対する支援要望(私大協)
 https://www.shidaikyo.or.jp/topics/pdf/200501shidaikyo.pdf

 

 そもそも、私立大学の学生納付金には、授業料のほか、施設設備費 、教育充実費、実験実習費等が含まれます。しかし、その内訳に厳密な基準があるわけではなく、入学金を除くと、学生納付金は一般的な意味での授業料としてひとまとめに扱っている大学が大多数だと思います。
 また、学生納付金は前納制で基本的に返還されないことになっており、そのことが大学の財務の安定に貢献していると言えます。

 今回の感染症拡大の影響は、教育の質の保証の問題だけではなく、大学の財務の問題も浮き彫りにすることになるかもしれません。

 

フルブライト奨学金について

 近年新たに設置された学部や学科のなかには、留学体験を義務付けたカリキュラムを編成したところも多いようです。新型コロナウイルス感染症の拡大により、留学を伴うカリキュラムの運営に苦心する関係者も多いことと思います。

 

 このような時期ではありますが、2021年度のフルブライト奨学生の募集が行われれいます(5月31日まで)。
https://www.fulbright.jp/scholarship/index.html

 

 今日では多くの留学奨学金制度が創設され、今でこそフルブライト奨学金の相対的地位は低下したかもしれませんが、それでも未だその知名度は高いものがあります。

 フルブライト奨学金は、米国の上院議員ウィリアム・フルブライト(1905-1995)の発案によるもので、1946年に始まりました。米国と諸外国との相互留学と国際親善を米国政府の資金により実施するものです。日本では、ガオリア資金(占領地域救済政府資金)による留学プログラムを継承するかたちで、昭和27年(1952年)に始まっています。フルブライト奨学生(フルブライター)のなかから多くの著名人が誕生し、フルブライト奨学金は国際奨学金の代表的存在となりました。

 日米教育委員会が設置された後は(1979年~)、米国だけではなく日本も費用を分担するようになり、今日まで存続しています。