大学について考えるブログ

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リスクと専門知について

 前回に続き、新型コロナウイルスによる感染症の話題です。

 政府の要請を踏まえ、今後予定されている卒業式等の大学のイベントや大学関係のフォーラム・研究会等の中止の発表が相次いでいます。

 

 このような事態が起きると、対策の根拠と有効性、日常生活や経済活動への影響などの立場から意見が表明され、しばしば専門知と社会との関係が議論の俎上にあがります。科学的合理性と社会的合理性、さらにはそこに政治が介在し、次元の異なる複雑な要因が絡んでいます。

 今回の件でも専門知は重要なキーワードの一つだと思います。しかし、科学技術に限らず、人文学、社会科学も含めた専門家が集う大学が、現実には蚊帳の外にあるように思えることは、少し残念な気もします。

 

 ドイツの社会学者ウルリヒ・ベック(1944-2015)が提唱したリスク社会、つまり、政府の重要課題が「富の分配」から「リスクの分配」へ移行した社会(『危険社会:新しい近代への道』法政大学出版局、1998年)を象徴する事態が次々に生じているのかもしれません。

 以下の2つの書籍は、科学技術社会論STS:Science, Technology and Society もしくは、Science and Technology Studies )に関する、多くの事例を扱ったテキストです。日本にもSTSに関して一定の研究蓄積があり、今後、今回の感染症とその対応に関してさらなる分析が生まれると思います。

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小林傳司編『公共のための科学技術』(玉川大学出版部、2002年)

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藤垣裕子編『科学技術社会論の技法』(東京大学出版会、2005年)