大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

文部科学省総合教育政策局の新設について

 文部科学省組織令の一部を改正する政令(「総合教育政策局等関係改正令」)が、今月16日に施行され、文部科学省に総合教育政策局が新設されることになりました。

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1409585.htm

 

 総合教育政策局は、主として生涯学習政策局の再編により誕生するもので、「学校教育と社会教育を通じたより総合的・横断的な教育政策を推進し、教育基本法第3条の生涯学習の理念に基づいた生涯学習政策の更なる強化を実現する」ことを目的としています。

 高等教育に直接関連する内容としては、総合教育政策局に教育人材政策課が設置されたことにより、初等中等教育局と高等教育局とに分かれていた教員養成に関する業務が一元化されることがあげられます。

 

 総合教育政策局の前身は生涯学習政策局ですが、さらに遡ると文部省時代の生涯学習局がその起源となっています。生涯学習局は、昭和63年(1988年)に社会教育局(戦前の社会教育局とは別)を改組して設置されたものです。

 

 教育政策、学校教育・社会教育、生涯学習等の言葉を並べていると、個人的な思いですが、社会のエートスを脱学校化(deschooled)することを提唱したイリッチを読み返したくなります。

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イヴァン・イリッチ『脱学校の社会』(東京創元社、1977年(原著1971年))

「卓越大学院プログラム」について

  本日、「卓越大学院プログラム」の採択結果が、文部科学省のウェブページに公開されました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/10/1409731.htm

 卓越大学院プログラムとは、「社会にイノベーションをもたらすことができる博士人材を育成することを目的」として、今年度から始まった事業で、大学院の博士課程プログラム(前期・後期一貫、一貫制博士課程、医系等の4年制博士課程)がその対象になっています。

 

 大学院の教育改革への支援(誘導型の補助金)の代表的なものとしては、「博士課程教育リーディングプログラム」(平成23年度~)がありますが、さらに遡れば、「組織的な大学院教育改革推進プログラム」(平成19~23年度)や「「魅力ある大学院教育」イニシアティブ」(平成17~19年度)等が思い起こされます。

*国公私立大学を通じた大学教育再生の戦略的推進(国公私立大学を通じた大学教育改革の支援)
 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/index.htm

 

 教育プログラムへの競争的資金の導入は、「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP、平成15年度開始)」や「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP、平成16年度開始)」に代表されるGP(Good Practice)事業の開始に象徴されると思います。

  かつて、GP事業の合同フォーラムが主としてパシフィコ横浜を会場に開催されていました。筆者も何度か参加しました。以下の冊子は、第1回目の合同フォーラムの記録です。

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 文部科学省『平成18年度 大学教育改革プログラム合同フォーラム記録集』(文教協会、2007年)

東京大学の入試出願要件(英語)について(2021年度実施)

  9月26日付けで、東京大学から「2021年度東京大学一般入試における出願要件の追加について」が公表され、民間の英語認定試験の大学入学共通テストへの活用について動きがありました。

https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_admission_method_03.html

 

 これによると、2022年度の入学者選抜(2021年度実施)は、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)の「A2」以上を出願要件(合否判定の資料には用いない。)とするものの、① 民間試験の成績  ② 高等学校の調査書等の証明書類 ③ ①、②のどちらも出せない理由書 の3者のいずれかの提出を求めています。

 民間の英語認定試験の受験を必須とはしなかったことは、今後の他大学の判断にも影響を及ぼすかもしれません。

 

「教育関係共同利用拠点(FD・SD関係)」の認定について

 昨年、「教育関係共同利用拠点」について紹介しましたが、今月、今年度の拠点の認定について発表がありました。
 「大学の職員(教員を含む。)の組織的な研修等の実施機関」としては、熊本大学教授システム学研究センターのほか3大学が認定(再認定を含む。)を受けました。http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakukan/1409419.htm

熊本大学教授システム学研究センター
 http://www.rcis.kumamoto-u.ac.jp/ja/home/

 

キャリア教育について

 前回、「大学生のキャリア意識調査」について書きましたが、大学でキャリア教育が義務化されたのは、平成23年(2011年)の大学設置基準の改正によるものでした。すなわち、大学設置基準に以下の条文が加えられました。

 

(第42条の2)
 大学は、当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ、学生が卒業後自らの資質を向上させ、社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適切な体制を整えるものとする。

 

 もっとも、キャリア教育の義務化とは、キャリア関連の授業科目の開設を義務付けるものではなく、肝心なことは、それぞれの大学や学部等の目的に応じたキャリア教育を教育課程のなかに適切に位置づけ、展開することにあります。

 

 そもそも、日本の教育行政において、キャリア教育が取り上げられたのは、中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11 年12 月16日)からだとされています。その後、中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23 年1月31 日)において本格的に論じられました。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1301877.htm

 そのなかで、キャリア教育とは「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義されています。

 

 キャリア教育に関連する学会として、日本キャリア教育学会があります。この学会は、昭和53年(1978年)に設立された日本進路指導学会(前身は日本職業指導学会)が、平成17年(2005年)に現名称に変更されたものです。なお、 年次大会が以下のとおり開催されます。

 

・日本キャリア教育学会〔第40回研究大会〕
 12月7日(金)~9日(日)早稲田大学早稲田キャンパス
 https://jssce.jp/c2018/

 

 以下の書籍は、必ずしもキャリア教育をテーマにしたものではありませんが、P&G、デュポン、3M等の世界を代表する化学企業の人材育成、マーケティング、企業経営等の強みや特徴が描かれており、日本国内で展開されているキャリア教育に何らかの示唆を与えてくれるような気がします。(同時に化学産業の構造や歴史の知識を得ることもできます。)

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田島慶三『世界の化学企業 グローバル企業21社の強みを探る』(東京化学同人、2014年)

「大学生のキャリア意識調査」について

 電通育英会京都大学高等教育研究開発推進センターは、大学生の生活実態やキャリア意識などに関する全国調査「大学生のキャリア意識調査」を、平成19年(2007年)から3年おきに実施しています。報告書をウェブ上で読むことが可能で、現代の学生の実態や傾向を垣間見ることができます。

https://www.dentsu-ikueikai.or.jp/transmission/investigation/about/

 今度、その内容が、著書(溝上慎一『大学生白書2018  ーいまの大学教育では学生を変えられない』(東信堂))にまとめられ、出版されました。

 

 いわゆる「学生論」は、いつの時代にも存在したようで、昭和15年に出版された以下の書籍の編者は、「明治の學生は尊敬され、大正の學生は恐れられ、今日の學生は軽蔑される」として、特別な存在ではなくなった”現代”學生の危機(最大の関心事は就職であり、老年期の精神へと後退していると指摘)だと問題提起しています。

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室伏高信編『現代學生は何を為すべきか』(四谷書房、1940年)

「学校法人運営調査における経営指導の充実について(通知)」について

 7月30日付けで、文部科学省高等教育局長から文科大臣が所轄する学校法人理事長宛てに「学校法人運営調査における経営指導の充実について」と題する通知がありました。

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1408727.htm

 この通知は、経営が悪化した私立大学への指導を強化する方針を示したもので、経営指導の具体的内容に踏み込むものとなっています。

 

 経営指導の必要性に関しては、これまでも、中央教育審議会大学分科会将来構想部会「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ(平成30年6月28日)」等において提言されています。

新構想大学について

 昨日、図書館情報大学について書きましたが、現在、図情大は筑波大学の一部局(春日エリア)となっています。筑波大学の設立は、昭和48年(1973年)の10月ですから、来月で45年周年を迎えます。いわゆる「新構想大学」の代表的な存在の筑波大学も半世紀近くの歩み重ねたことになります。

 

 新構想大学とは、既存の大学の自主的な改革を促すことを目的の一つにして、教育研究、管理運営等の面で従来の大学の仕組みにとらわれない新しい試みを取り入れて誕生した大学群のことです。その多くが大学紛争期以降の1970年代に設立されています。

 具体的には、筑波大学図書館情報大学のほか、長岡及び豊橋の技術科学大学、新規の教育大学(兵庫、上越、鳴門)などです。無医大県解消のために、既存の大学に医学部を設置するのではなく、新たに創設された単科の医科大学の多くも新構想大学です(浜松、滋賀ほか)。

 

 筑波大学東京教育大学を母体として設立されましたが、制度的には両者に連続性はありません。とは言え、東京教育大学の前身の東京高等師範学校以来の「教育の総本山」としての伝統は筑波大学にも継承されています。

 以下の書籍は、教科書裁判でも有名な歴史家による東京教育大学回顧録です。

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家永三郎東京教育大学文学部 栄光と受難の三十年』(現代史出版会、1978年)