大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

大学設置基準の改正(大学職員関係)について ~その2〔教職協働〕~

(昨日の続き)

 二つ目は、平成29年3月に公布された教職協働に関する内容です。以下、新設された条文です。

 

(第2条の3)
 大学は,当該大学の教育研究活動等の組織的かつ効果的な運営を図るため,当該大学の教員と事務職員等との適切な役割分担の下で,これらの者の間の連携体制を確保し,これらの者の協働によりその職務が行われるよう留意するものとする。
 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1385804.htm

 

 「事務職員・事務組織等がこれまで以上に積極的な役割を担い」、また「教員・事務職員等の垣根を越えた取組が一層必要」(「大学設置基準等の一部を改正する省令の公布について(通知)」)とされています。

 

 1年前に公布された「SDの義務化」も含め、大学職員あり方については、「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」(中教審大学分科会  平成26年2月12日)のなかで、大学設置基準改正の方向性が示されていました。(今回、「高度専門職の設置」は見送られたことになります。)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/11/11/1353308_05.pdf

 

 そもそも、大学設置基準は、大学基準協会の「大学基準」に代わるものとして、昭和31年(1956年)に文部省令として法令化されたものです。そのような経緯をもつ大学設置基準は、どのような特徴をもち、大学を規定しているのでしょうか。以下は、大学設置基準に関する数少ない研究報告です。
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天城勲・慶伊富長編『大学設置基準の研究』(東京大学出版会、1977年)

 

大学設置基準の改正(大学職員関係)について ~その1〔SDの義務化〕~

 平成29年4月に改正(施行)された大学設置基準において、大学職員に関わる2つの条文が追加されました。それぞれ、今日と明日、2回にわたって書きたいと思います。

 まず、一つ目は、平成28年3月に公布されたSD(スタッフ・ディベロップメント)に関する内容です。以下、新設された条文です。

 

(第42条の3)
 大学は、当該大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため、その職員に必要な知識及び技能を習得させ、並びにその能力及び資質を向上させるための研修(第25条の3に規定するものを除く。)の機会を設けることその他必要な取組を行うものとする。

 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1369942.htm

 

 ここで、「「職員」には、事務職員のほか、教授等の教員や学長等の大学執行部、技術職員等も含まれる(「大学設置基準等の一部を改正する省令の公布について(通知)」の留意事項)」とされ、広義の大学職員を指しています。
 また、「第25条の3」の条文には、「大学は、当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする」とあり、つまり、授業改善のための取組(FD)を指しています。

 

 今回の設置基準の改正により、SDに関する考え方が整理できます。つまり、SDの対象は、教員、事務職員に関わりなく、大学の構成員全体であるということ、また、SDの内容は、(FD以外の)大学の効果的な運営に関すること全般にわたるということが読みとれます。

 

 国立大学の職員も含めた大学職員論が俄かに活気づき始めた頃、SDの議論を先導した活動の一つに、筑波大学大学研究センターが実施した一連の研究会(1999年、2001年、2003年)がありました。以下は、その平成15年(2003年)の記録です。

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山本眞一編『SDが支える強い大学づくり 大学職員は何を学び、それをどう生かすか?』(文葉社、2006年)

教員養成(再課程認定)について

 日本の教員養成は、特定の大学に限らず一般の大学にも開かれ、いわゆる「開放制の教員養成」の原則をとっています。(戦前は、師範学校等においてのみ教員養成を行っていました。) 昭和28年(1953年)、教育職員免許法が改正され、「課程認定」の制度が整いました。
 ただし、今日では、開放制の原則のもと、「教員養成に対する明確な理念(養成する教員像)の追求・確立がなされていない」、「教職課程の組織編成やカリキュラム編成が、必ずしも十分整備されていない」大学があるなどの課題も指摘されています(中央教育審議会『今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)』(平成18年7月11日))。

 目下、教員免許業務に携わる大学関係者の関心事は、今年度末に迫った再課程認定の申請でしょう。いよいよ、今月から文部科学省による各地区での説明会が始まりました。
 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kyoin/1387995.htm

 

 教員免許業務は、関係する多くの法令の解釈作業に加え、自大学のカリキュラムの知識が不可欠であり、しかも、制度改正も多く、非常に複雑な業務となっています(実際、たびたび大学のミスが報道されています)。今回の再課程認定に関しても、新たな知識が必要になりますが、これまでに出版された本も教免業務の理解に有用です。

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小野勝士・村瀬隆彦・上西浩司・中井俊樹編『大学の教員免許業務Q&A』(玉川大学出版部、2014年)

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『教員免許更新制ガイドブック』(文教協会、2016年)(※文教協会は今年6月30日に解散しました。)

 

 

国立大学協会について

 今年度も「国立大学法人職員必携」が国立大学協会(国大協)から発行されました。まとまった部数購入する大学も多いのではないでしょうか。
 http://www.janu.jp/news/whatsnew/20170720-wnew-hikkei.html
 
 国大協は、新制国立大学発足直後の昭和25年(1950年)に設立されています。設置形態に応じて、公立大学が加盟する公立大学協会、私立大学には日本私立大学連盟及び日本私立大学協会があり、戦後のほぼ同時期に設立されています。それぞれが、提言や研修・セミナーの開催等の活動を行っています。

 最近では、いわゆる研究大学(Research University)の団体「RU11(学術研究懇話会)」が発足するなど(2009年)、設置形態を越えた連携の動きも活発になっているようです。
*RU11 http://www.ru11.jp/index.html
 
 国大協をはじめとする大学団体が設立された1950年前後は、大学にも民主化の機運が高まり、民主主義科学者協会に代表される科学運動がかつてない拡がりをもちました。今日の日本では、科学運動の有効性は失われているものの、戦後の科学運動を知ることは現在の大学理解の一助になると思います。以下は廣重徹(1928-75)の代表作の一つです。

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廣重徹『戦後日本の科学運動』(中央公論社、1960年)(こぶし書房、2012年)(廣重徹が大学について扱った論文に「日本の大学の理学部 -その科学社会史的側面(中央公論社『自然』1965年5月号)」(『近代科学再考』(朝日新聞社、1979)(筑摩書房、2008)に再録)などがあります。)

9月の学会(大学教育関係)について

 9月は、学会シーズンの1つです。学会が平日に行われる場合は、授業がなく、会場(教室)も借りやすい春季(3月)か秋季(9月)の休暇中に開催されるのが一般的です。土、日を中心に実施される学会は、入試の時期や学期初めを避け、初夏か初冬に設定されるようです。
 9月に開催される大学教育に関わる学会(年次大会)を2件紹介します。

初年次教育学会〔第10回大会〕
 9月6日(水)、7日(木)中部大学/春日井キャンパス
 http://www.jafye.org/conf/conf2017/

日本教育工学会〔第33回全国大会〕
 9月15日(金)~18日(月・祝)島根大学/松江キャンパス
 https://www.jset.gr.jp/taikai33/

 

 学会は研究者にとって重要な活動の場であり、大学関係者にとっても、教員の理解に欠くことのできない非常に重要な要素の一つであると思います。そもそも、学会はいつ、どのように成立したのでしょうか。以下の本の「学会の成立と展開」という章に、その経緯(英国のロイヤル・ソサエティから、科学が制度化され、広く学会が展開された19世紀まで)を簡潔にまとめられています。

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成定薫『科学と社会のインターフェイス』(平凡社、1994年)

学校教育法の改正(大学への編入学)について

 学校教育法の改正に伴い、平成28年4月から、高等学校の専攻科の修了者が大学に編入学することが可能になりました。
 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/1370599.htm
 
 これにより、大学への編入学は、短期大学、高等専門学校、専門学校(専修学校)、高等学校(中等教育学校、特別支援学校の高等部)の専攻科の卒業/修了者に認められたことになります。
 専攻科をもつ高等学校は、看護等の職業学科(専門高校)に多く、同様の専門をもつ大学で編入学の需要が見込まれています。
 
 

 大学の年次途中への入学は、編入学以外にも転学(他大学からの学生の異動)や再入学があります。学生にとっては進路の選択肢が増えることになりますが、大学にとっては、それに対応したカリキュラムの整備が必要になるのはもちろん、滞りなく教務の業務を遂行する必要性が生じます。
 教務の実践に役立つ本として、以下の本を紹介します。

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中井俊樹・上西浩司編『大学の教務 Q&A』(玉川大学出版部、2012年)

 
 戦後、日本の高等教育機関は四年制大学に一元化され、また、学校体系は単線型になったとされますが、現在では、大学の編入学の制度が拡大され、また、高等専門学校の専攻科から大学院への進学が認められるなど、細部においては複雑化しています。
 複線型の学校体系を改革した戦後の学制改革において、大学の制度改革、教育改革がどのようなものであったかを知るには以下のような本があります。

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土持ゲーリー法一『戦後日本の高等教育改革政策 「教養教育」の構築』(玉川大学出版部、2006年)

FD/SDのネットワークについて

 米国において、FD(SD)の専門家の団体POD(The Professional and Organizational Development Network in Higher Education)が設立されたのは、1976年でした。英国のSEDA(Staff and Educational Development Association)は、1993年から活動を開始しています(SCEDとSRHEが統合され誕生)。それぞれ大規模な年次大会が開かれ、技能の向上のための議論や情報交換が行われているようです。

*POD http://podnetwork.org/
*SEDA https://www.seda.ac.uk/

 

 日本に目を向けると、FD/SDの専門職集団が形成されている状況にはありませんが、大学設置基準においてFDが義務化された平成20年(2008年)の前後に、FD関係のネットワーク、協会等が相次いで設立されました。

 全国規模のネットワークとしては、国立教育政策研究所の研究活動を元に誕生した日本高等教育開発協会(JAED、平成21年 (2009年)設立)、36の私立大学が加盟する日本私立大学FD連携フォーラム(JPFF、平成20年 (2008年)設立)などがあります。

*JAED https://www.jaedweb.org/
*JPFF http://www.fd-forum.org/fd-forum/

 

 地域のネットワークの代表的な例として、四国地区大学教職員能力開発ネットワーク(SPOD)を紹介したいと思います。SPODは、平成20年(2008年)に設立され、四国4県の32の国公私立大学、短大、高専が加盟しています。様々な研修の機会が提供されていますが、特に毎夏開催されるSPODフォーラムが有名です。今年は、8月23日から徳島大学で開催されます。(因みに筆者も参加します。)

・SPODフォーラム2017
 8月23日(水)~25日(金)徳島大学/常三島キャンパス
 https://www.spod.ehime-u.ac.jp/wt/forum/

 

 FDにも様々な手法や目的がありますが、授業の基本を知ることは教員にもFD担当者にも有用でしょう。以下の本には、授業のアイデアやヒントがつまっています。

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バーバラ・グロスデイビス『授業の道具箱』(東海大学出版会、2002年(原著1993年))

 

 

大学評価関連のイベント(8月)について

 認証評価が導入されたのは平成16年(2004年)ですが、その年、法人化された国立大学では、あわせて法人評価への対応も必要になりました。

 現在、盛んに提唱されているIR(インスティテューショナル・リサーチ)や教育の質保証も、特に国立大学の文脈では、大学評価への対応という側面が大きかったことは否定できないと思います。

 8月下旬、大学評価への関心から始まった2つの団体のイベントが開催されますので、紹介します。

・大学評価・IR担当者集会(大学評価コンソーシアム)
 8月23日(水)~25日(金)立命館大学/大阪いばらきキャンパス
 http://iir.ibaraki.ac.jp/jcache/index.php

・高等教育質保証学会〔第7回大会〕
 8月26(土)、27日(日)大阪大学豊中キャンパス
 http://jaquahe.org/03news.html

 

 筆者が、初めて大学評価に関わったときのテキストを紹介します。個人的な話を書かせてもらえれば、第1回目の認証評価の際は、この本の著者から直接多くのことを学ばせていただきました。

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関口正司『教育改善のための大学評価マニュアル-中期計画実施時の自己評価に役立つ25のポイント』(九州大学出版会、2004年)