生涯学習について
前回、放送大学について書きましたが、放送大学は生涯学習(lifelong learning)の機会を提供する代表的な機関の一つと言えます。
生涯学習については、教育基本法第3条で「国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」とされ、その理念がうたわれています。
なお、この条項は、平成18年(2006年)の改正で新設されたものです。
もっとも、教育基本法改正以前から、国による生涯学習の推進が図られてきました。その動きを象徴するものとして、まず、昭和56年(1981年)の中央教育審議会答申「生涯教育について」をあげることができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/toushin/1309550.htm
その答申にも書かれていますが、生涯学習の考え方は、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関 UNESCO)によって最初に提唱されたものです。
国内の話に戻ると、臨時教育審議会第四次答申の提言を受け、昭和63年(1988年)に文部省に生涯学習局(現在の総合教育政策局)が設置され、 平成2年(1990年)には生涯学習振興法(「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」)が成立しました。
平成8年(1996年)の生涯学習審議会答申「地域における生涯学習機会の充実方策について」では、高等教育機関の社会人の受け入れに関する多くの具体的な提言がなされています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_gakushu_index/toushin/1315169.htm
筆者が生涯学習という言葉を初めて知ったのは、高校生の頃、倫理の教科書からではなかったかと記憶しています。
学校の教科という範疇を越えて、その意味や重要性を認識できるようになるには少し時間がかかるような気がします。
『詳解 倫理』(三省堂、1994年)
放送大学について
例年、この時期、オープン・エデュケーション・コンソーシアムによるオープン・エデュケーション・ウィークが開催されています。
https://www.openeducationweek.org/
日本のオープン・エデュケーションを代表する機関として、放送大学が挙げられるでしょう。現在、放送大学では、2019年4月入学生の出願受付が行われています(3月17日まで)。
https://www.ouj.ac.jp/
放送大学には教養学部と大学院(文化科学研究科)があり、卒業や修了を目指すことができますが(全科履修生)、特定の科目だけを履修することも可能です(選科履修生等)。入学者数でみると、選科履修生等の特定科目の履修者が、全科履修生を上回っています。
放送大学の授業は、テキスト(印刷教材)を用い、テレビもしくはラジオにより行われ、最終的にテストを受けて単位が認定されます。同時に、面接授業(スクーリング)やオンライン授業も実施されています。テストや面接授業は、全ての都道府県におかれた学習センターが主な会場になります。
放送大学は、昭和58年(1983年)に放送大学学園によって設置され、昭和60年4月から授業が開始されています。さらに説明すると、昭和56年年に公布・施行された放送大学学園法(平成14年(2002年)に全部改正)が、その根拠となっています。
放送大学は、放送大学学園という学校法人(私立学校法第3条に規定する学校法人)によって設置されているという意味において私立大学に分類されます。もっとも、放送大学は法律に基づいて設置された機関であり、職員の多くは、文部科学省や国立大学からの出向者が占めていることからも、実態において国立大学との親和性が高いことは否定できないかもしれません。
放送大学のテキストは市販されており、誰でも容易に入手できます。高等教育に関する分野も扱われており、例えば、以下のようなテキストを挙げることができます。
安原義仁、大塚豊、羽田貴史『大学と社会』(日本放送出版協会、2008年)山本眞一、田中義郎『大学のマネジメント』(日本放送出版協会、2008年)
高等教育関係のイベント(3月)について
この3月に開催される高等教育関係のイベントをいくつか紹介します。
・大学評価学会〔第16回全国大会〕
3月2日(土)、3日(日)神戸大学/六甲台キャンパス
http://www.unive.jp/taikai/dai16/dai16taikai.pdf [PDF]
・FDフォーラム(大学コンソーシアム京都)〔第24回〕
3月2日(土)、3日(日)立命館大学/衣笠キャンパス
http://www.consortium.or.jp/project/fd/forum
・大学教育改革フォーラム in 東海 2019
3月9日(土)名城大学/ナゴヤドーム前キャンパス
https://sites.google.com/view/tokaiforum2019/
・日本アクティブ・ラーニング学会〔第3回全国大会〕
3月10日(日)/神田外国語大学
https://jals2030.net/zenkoku3-oshirase/
・大学教育研究フォーラム〔第25回〕
3月23日(土)、24日(日)京都大学/吉田キャンパス
http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/forum/2018/
・IDE高等教育研究フォーラム
3月28日(木)一橋大学一橋講堂(東京都千代田区)
http://ide-web.net/newevent/blog.cgi?category=001
・大学マネジメント研究会〔総会・記念講演会〕
3月30日(土)プラザエフ(東京都千代田区)
https://www.anum.biz/cont5/31.html
大学設置基準の改正(工学系学部の教育課程に関する特例)について
昨年(平成30年)6月29日に公布・施行された、大学設置基準の一部を改正する省令において、「工学に関する学部の教育課程に関する特例(新11章)」が追加されました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1407810.htm
以下のウェブページに、改正の概要が掲載されています。
今回の措置で注目したいのが、「複数の工学の専攻分野を横断した教育課程の実施に向けた工学部等における柔軟な教育体制の構築」(大学設置基準及び大学院設置基準の一部を改正する省令等の施行について(通知)」)のために、学科ではなく、課程を設けた場合、専任教員数の基準や学生の収容定員を柔軟に対応できるようにしたことです。
今回の改正は工学系の特例ですが、今後、他の領域(学部)でも、教育の中心が組織(学部・学科)から課程(学位プログラム)へ移行する流れが進むかもしれません。
平成10年(1998年)の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について ―競争的環境の中で個性が輝く大学―」において、「学部(学士課程)」と括弧付きながら初めて学士課程という用語が使われました。(もともと学士課程という用語は、一般教育学会(現大学教育学会)の造語だそうです。)
平成17年(2005年)の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」では、「大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は、教育の充実の観点から、学部・大学院を通じて、学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要がある」とし、学位プログラムを中心とした大学制度への転換が提唱されました。
将来像答申の前後、教養部解体から約10年後、学士課程教育の在り方が盛んに議論されていたように思います。以下の書籍は、その当時に出版されたものですが、現在も同様の課題が残されているように感じます。
『学士学位プログラム(『高等教育研究』第8集)』(日本高等教育学会編(玉川大学出版部)、2005年)
絹川正吉、舘昭編著『学士課程教育の改革』(東信堂、2004年)
「学校法人制度の改善方策について」について
平成29年5月の私立大学等の振興に関する検討会議「議論のまとめ」を踏まえ、このほど、大学設置・学校法人審議会学校法人分科会学校法人制度改善検討小委員会が取りまとめた「学校法人制度の改善方策について」が公開されました。
*私立大学等の振興に関する検討会議
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/073/index.htm
*「学校法人制度の改善方策について」(学校法人制度改善検討小委員会)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/002-1/houkoku/1412262.htm
今後、学校法人のガバナンス、情報公開、破綻処理の手続き等に関する法令改正の動きが進むようです。
個人的には、監事機能の実質化の提唱に注目したいと思います。大学の監査制度については以前にもふれましたが、監事機能は大学のガバナンスにとって重要な要素であるはずです。
学歴社会について
昨年11月、日本研究で著名な英国の社会学者ロナルド・ドーア(1925-2018)が亡くなりました。日本社会の様々な領域の分析を行っていますが、学歴社会の比較研究でもよく知られています。
ドーアは、学校の教育機能が社会的選抜機能によって取って代わられる、学歴偏重社会を近代の"文明病"とし、特に近代化の開始が遅い国ほどその傾向が顕著であると指摘しました。
日本がどの程度学歴社会であると言えるかは議論のあるところのようです。学歴と社会的地位の関係、学歴インフレの進行、受験競争の激化など、学歴社会の要素を国際比較すると、必ずしも日本だけが突出した学歴社会であるとは言えないようです。
本文中で説明したドーアの書著で、日本以外の多くの国も分析対象とされています。1978年の出版ですが、その後、同社から何度も再版されています。
「高等教育・研究改革イニシアティブ(柴山イニシアティブ)」について
今月、文部科学省から「高等教育・研究改革イニシアティブ(柴山イニシアティブ)」が公表されました。
http://www.mext.go.jp/a_menu/other/1413322.htm
大学改革に関して、高等教育機関へのアクセスの確保、大学教育の質保証・向上、研究力向上、教育研究基盤・ガバナンス強化の4点を軸に改革の方向性が示されています。今後、関連法案が国会に提出され、審議されることになります。
以下の書籍は、大学職員が学べる大学院を紹介したときに挙げた東京大学大学院 教育学研究科(大学経営・政策コース)から出されたテキストです。
大学の制度のや構造の特徴、教育・研究のマネジメント、大学経営・政策の国際的な潮流など大学の経営・政策に関わる領域を包括的に採り上げています。
平成30年度教職課程再課程認定の結果について
昨年度、このブログで教職課程の再課程認定について書きましたが、平成30年度の結果が中央教育審議会の部会資料として公開されていますので紹介します。
*平成30年度課程認定大学等一覧【再課程認定】
http://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/01/1412972.htm
(なお、改組に伴う通常の課程認定はこちら。http://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2018/10/1410178.htm)