大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

国立大学協会について

 今年度も「国立大学法人職員必携」が国立大学協会(国大協)から発行されました。まとまった部数購入する大学も多いのではないでしょうか。
 http://www.janu.jp/news/whatsnew/20170720-wnew-hikkei.html
 
 国大協は、新制国立大学発足直後の昭和25年(1950年)に設立されています。設置形態に応じて、公立大学が加盟する公立大学協会、私立大学には日本私立大学連盟及び日本私立大学協会があり、戦後のほぼ同時期に設立されています。それぞれが、提言や研修・セミナーの開催等の活動を行っています。

 最近では、いわゆる研究大学(Research University)の団体「RU11(学術研究懇話会)」が発足するなど(2009年)、設置形態を越えた連携の動きも活発になっているようです。
*RU11 http://www.ru11.jp/index.html
 
 国大協をはじめとする大学団体が設立された1950年前後は、大学にも民主化の機運が高まり、民主主義科学者協会に代表される科学運動がかつてない拡がりをもちました。今日の日本では、科学運動の有効性は失われているものの、戦後の科学運動を知ることは現在の大学理解の一助になると思います。以下は廣重徹(1928-75)の代表作の一つです。

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廣重徹『戦後日本の科学運動』(中央公論社、1960年)(こぶし書房、2012年)(廣重徹が大学について扱った論文に「日本の大学の理学部 -その科学社会史的側面(中央公論社『自然』1965年5月号)」(『近代科学再考』(朝日新聞社、1979)(筑摩書房、2008)に再録)などがあります。)

9月の学会(大学教育関係)について

 9月は、学会シーズンの1つです。学会が平日に行われる場合は、授業がなく、会場(教室)も借りやすい春季(3月)か秋季(9月)の休暇中に開催されるのが一般的です。土、日を中心に実施される学会は、入試の時期や学期初めを避け、初夏か初冬に設定されるようです。
 9月に開催される大学教育に関わる学会(年次大会)を2件紹介します。

初年次教育学会〔第10回大会〕
 9月6日(水)、7日(木)中部大学/春日井キャンパス
 http://www.jafye.org/conf/conf2017/

日本教育工学会〔第33回全国大会〕
 9月15日(金)~18日(月・祝)島根大学/松江キャンパス
 https://www.jset.gr.jp/taikai33/

 

 学会は研究者にとって重要な活動の場であり、大学関係者にとっても、教員の理解に欠くことのできない非常に重要な要素の一つであると思います。そもそも、学会はいつ、どのように成立したのでしょうか。以下の本の「学会の成立と展開」という章に、その経緯(英国のロイヤル・ソサエティから、科学が制度化され、広く学会が展開された19世紀まで)を簡潔にまとめられています。

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成定薫『科学と社会のインターフェイス』(平凡社、1994年)

学校教育法の改正(大学への編入学)について

 学校教育法の改正に伴い、平成28年4月から、高等学校の専攻科の修了者が大学に編入学することが可能になりました。
 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/1370599.htm
 
 これにより、大学への編入学は、短期大学、高等専門学校、専門学校(専修学校)、高等学校(中等教育学校、特別支援学校の高等部)の専攻科の卒業/修了者に認められたことになります。
 専攻科をもつ高等学校は、看護等の職業学科(専門高校)に多く、同様の専門をもつ大学で編入学の需要が見込まれています。
 
 

 大学の年次途中への入学は、編入学以外にも転学(他大学からの学生の異動)や再入学があります。学生にとっては進路の選択肢が増えることになりますが、大学にとっては、それに対応したカリキュラムの整備が必要になるのはもちろん、滞りなく教務の業務を遂行する必要性が生じます。
 教務の実践に役立つ本として、以下の本を紹介します。

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中井俊樹・上西浩司編『大学の教務 Q&A』(玉川大学出版部、2012年)

 
 戦後、日本の高等教育機関は四年制大学に一元化され、また、学校体系は単線型になったとされますが、現在では、大学の編入学の制度が拡大され、また、高等専門学校の専攻科から大学院への進学が認められるなど、細部においては複雑化しています。
 複線型の学校体系を改革した戦後の学制改革において、大学の制度改革、教育改革がどのようなものであったかを知るには以下のような本があります。

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土持ゲーリー法一『戦後日本の高等教育改革政策 「教養教育」の構築』(玉川大学出版部、2006年)

FD/SDのネットワークについて

 米国において、FD(SD)の専門家の団体POD(The Professional and Organizational Development Network in Higher Education)が設立されたのは、1976年でした。英国のSEDA(Staff and Educational Development Association)は、1993年から活動を開始しています(SCEDとSRHEが統合され誕生)。それぞれ大規模な年次大会が開かれ、技能の向上のための議論や情報交換が行われているようです。

*POD http://podnetwork.org/
*SEDA https://www.seda.ac.uk/

 

 日本に目を向けると、FD/SDの専門職集団が形成されている状況にはありませんが、大学設置基準においてFDが義務化された平成20年(2008年)の前後に、FD関係のネットワーク、協会等が相次いで設立されました。

 全国規模のネットワークとしては、国立教育政策研究所の研究活動を元に誕生した日本高等教育開発協会(JAED、平成21年 (2009年)設立)、36の私立大学が加盟する日本私立大学FD連携フォーラム(JPFF、平成20年 (2008年)設立)などがあります。

*JAED https://www.jaedweb.org/
*JPFF http://www.fd-forum.org/fd-forum/

 

 地域のネットワークの代表的な例として、四国地区大学教職員能力開発ネットワーク(SPOD)を紹介したいと思います。SPODは、平成20年(2008年)に設立され、四国4県の32の国公私立大学、短大、高専が加盟しています。様々な研修の機会が提供されていますが、特に毎夏開催されるSPODフォーラムが有名です。今年は、8月23日から徳島大学で開催されます。(因みに筆者も参加します。)

・SPODフォーラム2017
 8月23日(水)~25日(金)徳島大学/常三島キャンパス
 https://www.spod.ehime-u.ac.jp/wt/forum/

 

 FDにも様々な手法や目的がありますが、授業の基本を知ることは教員にもFD担当者にも有用でしょう。以下の本には、授業のアイデアやヒントがつまっています。

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バーバラ・グロスデイビス『授業の道具箱』(東海大学出版会、2002年(原著1993年))

 

 

大学評価関連のイベント(8月)について

 認証評価が導入されたのは平成16年(2004年)ですが、その年、法人化された国立大学では、あわせて法人評価への対応も必要になりました。

 現在、盛んに提唱されているIR(インスティテューショナル・リサーチ)や教育の質保証も、特に国立大学の文脈では、大学評価への対応という側面が大きかったことは否定できないと思います。

 8月下旬、大学評価への関心から始まった2つの団体のイベントが開催されますので、紹介します。

・大学評価・IR担当者集会(大学評価コンソーシアム)
 8月23日(水)~25日(金)立命館大学/大阪いばらきキャンパス
 http://iir.ibaraki.ac.jp/jcache/index.php

・高等教育質保証学会〔第7回大会〕
 8月26(土)、27日(日)大阪大学豊中キャンパス
 http://jaquahe.org/03news.html

 

 筆者が、初めて大学評価に関わったときのテキストを紹介します。個人的な話を書かせてもらえれば、第1回目の認証評価の際は、この本の著者から直接多くのことを学ばせていただきました。

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関口正司『教育改善のための大学評価マニュアル-中期計画実施時の自己評価に役立つ25のポイント』(九州大学出版会、2004年)

個人情報保護法の改正について

 5月30日、平成27年9月に成立した改正個人情報保護法が全面施行されました。平成15年に個人情報保護法が成立して以来の大規模な改正になります。

 改正のポイントはウェブ上で簡単に確認できるので、詳細はそれらに譲りたいと思います。(例えば、以下の3ページ目にまとめられています。)
 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/151117_tf1_s4.pdf

 

 個人情報保護の強化を図ると同時に加工情報の活用を促進することが意図されているようですが、大学を管理運営する立場の職員にとっての最も大きな変更点は、これまでの主務大臣制が廃止され、個人情報保護委員会に監督権限が一元化されることかもしれません。つまり、この件について、文部科学省から大学の事情に特化したガイドライン等の指針が示されることはなくなりました。大学は、個人情報保護法改正の趣旨を踏まえ、学内規則の改定や運用の見直しを独自に進めることが求められます。

 

 各大学において、滞りなく規則や規程を整備するのは案外難しいものです。法律や省令等の最新の知識に加え、自大学に関する認識や法令用語を駆使する技能などの複合的な能力が必要になるからです。
 大学職員が、法令用語を正しく理解、また、解釈し、学内の規則等を作成するため、以下の類の本を手元に置いておくと便利です。

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吉田利宏『新法令用語の常識』(日本評論社、2014年)、同『新法令解釈・作成の常識』(日本評論社、2017年)

IDE大学協会について

 現在、高等教育関係の学会、団体、コンソーシアム等の組織は枚挙にいとまがありませんが、比較的老舗の団体にIDE大学協会(Institute for Development of Higher Education)があります。IDEは、昭和29年(1954年)、民主教育協会(Institute for Democratic Education)として設立され、平成18年(2006年)、現名称になりました。
 http://ide-web.net/index.php

 

 一般には、年10回発行される冊子『IDE 現代の高等教育』によって知られているかもしれませんが、例年、各支部でセミナーも開催されています。IDE大学セミナーは、学園紛争最中の昭和44年(1969年)、IDE学生生活研究セミナーとして始まったもので、半世紀にわたり継続して開催されています。(約50年の各回のテーマを眺めるだけでも、その時代の大学の様子が偲ばれます。)

 

 この夏に開催されるIDE大学セミナーは以下のとおりです。

・北海道支部 8/28(月)、29日(火)「新しい教養教育の展開」
・東海支部 8/29(火)「学生ピアサポートをいかに組織するか」
・近畿支部 8/25(金)「人工知能と教育 -人工知能と人間の共進化を促進する教育とは-」
・中国四国支部 8/22(火)「高大接続 -大学入試改革-」
・九州支部 9/9(土)「大学のグローバルな高大接続戦略 -海外からいかに優秀な人材を受け入れるか-」

(東北支部は11/29(水)に、本部(首都圏)は2018年3/23(金)に開催予定)

 

 筆者は、『IDE 現代の高等教育』を定期購読しています。6月号の特集は「職員の人事マネジメント」でした。

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 IDE大学協会の歴史を知るには、以下のような協会の記念誌が参考になります。

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 『業績と回顧』 (IDE・高等教育研究所/ IDE50周年・高等教育研究所25周年記念誌、2004年)

指定国立大学法人の指定について

 6月30日、第3期中期目標期間(平成28~33年度)における指定国立大学法人の指定について発表がありました。

 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/06/1387558.htm

 

 指定国立大学とは「教育研究水準の向上とイノベーション創出を図るため、文部科学大臣が世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる国立大学法人を指定国立大学法人として指定」し、「その研究成果を活用する事業者への出資、中期目標に関する特例等」を認めるものです。

 今回、東北、東京、東京工業、一橋、名古屋、京都、大阪の7大学から申請があり、東北、東京、京都の3大学が指定を受けました。残りの4大学は「指定候補」として取り扱われます。

 

国立大学法人法の一部を改正する法律案

 http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/1367544.htm

 

 指定国立大学法人は、申請自体厳しい条件がつき、旧帝大でも申請できない大学もあった模様です。

 中期目標に関する特例による効果(教育研究のパフォーマンスの向上、経営面での成果等)がどれほどのものか、未知数の部分も大きいと思いますが、国立大学のなかでも差別化の流れが緩まることはなさそうです。

 

 国立大学法人という仕組みを法律から理解するためには、以下のような詳細な解説書があります。

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国立大学法人法制研究会『国立大学法人法コンメンタール』(ジアース教育新社 、2012年)

 

 国立大学の現状を理解ために、法人化前に想定されていた新しい国立大学の在り方を知るのも一つの手がかりになるかもしれません。そもそも、国立大学法人の制度はどのように考えられていたのか、以下の冊子(ウェブにも公開されています)から概要がつかめます。

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『新しい「国立大学法人」像について(通称 グリーンブック)』(国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議、2002年)