大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン」について

 本年5月、文部科学省から大学等の研究機関に事務連絡「『研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)』に基づく『体制整備等自己評価チェックリスト』の提出について(通知)」がありました。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kansa/houkoku/1324571.htm

 「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」は、平成19年(2007年)に制定(文部科学大臣決定)され、平成26年(2014年)に一部改正されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kansa/houkoku/1343904.htm

 このガイドラインは、文部科学省(同省が所管する独立行政法人)から配分される競争的資金の管理に関して、大学等の研究機関の責任体制を明確にし、適正な運営を求める内容になっています。

 

 研究費の不正使用以外の研究活動における不正行為(ねつ造、改ざん、盗用等)については、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年)(平成18年の「研究活動の不正行為への対応ガイドライン」の見直し)に大学等の研究機関の果たすべき役割が示されています。http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/1351568.htm

 

 以下の書籍では、研究費不正を含め、明治以降の日本の「研究者の事件データベース」を分析してあります。

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白楽ロックビル『科学研究者の事件と倫理』(講談社、2011年)

 

 科学者の不正行為に関する内容で、比較的早い時点で注目された書籍です。講談社版では、訳者解説で最新の事例も紹介されています。

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W.ブロード、N.ウェード『背信の科学者たち』(化学同人、1988年(原著1982年))(講談社、2014年)

 

廣中レポートについて

 前回、学生のメンタルヘルスについて書きましたが、総合的な学生支援に関して重要な転換点の一つになった「報告」があります。文部省高等教育局から出された『大学における学生生活の充実方策について(報告) -学生の立場に立った大学づくりを目指して-』(平成12年6月)、いわゆる「廣中レポート」です(「大学における学生生活の充実に関する調査研究会」の座長であった廣中平祐・山口大学学長(当時)から)。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/012/toushin/000601.htm


 廣中レポートでは、学生中心の大学への転換や正課外教育の意義の積極的な捉え直しなどが提言されました。学生に対する指導体制の充実については、学生相談、就職指導、就学指導、学生の自主的活動及び学生関連施設について改善方策が述べられ、各大学では、「何でも相談窓口」の設置など、文中に示された具体的措置が実施されることになりました。

 

 学生生活をサポートするための、網羅的な内容を含む書籍です。巻末の資料も参考になります。

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学生文化創造『学生支援・相談の基礎と実務』(悠光堂、2014年)

 

大学生のメンタルヘルス(自殺防止)について

 10月に入り、多くの大学では秋学期(後期)の授業が始まっていることと思います。それは、別の面では夏休み明けの時期でもあり、学生がメンタル面で不安定になる可能性が高まることも考えられます。
 入学や就職以外にも、学生生活のなかでは様々なライフイベントがあり、それぞれに応じてメンタルヘルスを含めた支援が必要です。特に、メンタルヘルスの問題は、最悪の場合、自殺(自死)に至ることもあり、非常に重いテーマです。
 自殺対策基本法(平成18年)では、学校を含む関係者の連携による自殺対策が重視されており、大学も自殺防止に関わることが求められています。

 毎年公表されている「自殺の状況」(内閣府自殺対策推進室・警察庁生活安全局生活安全企画課)によると、昨年(平成28年)の大学生の自殺者は374人(男294人、女80人)となっています。その過去3年の統計は以下のとおりです。

 平成27年 379人(男300人、女79人)
 平成26年 433人(男349人、女84人)
 平成25年 469人(男362人、女107人)

 自殺予防は、プリベンション(prevention 事前対応)、インターベンション(intervention 危機介入)だけでなく、ポストベンション(postvention 事後対応)も重要だとされています。ポストベンションとは、不幸にして自殺が起こってしまったとき、遺された周囲の人に及ぼす心理的影響を少なくするための方策です。

 

 学生のメンタルヘルスに関わる各団体から、自殺防止のガイドラインが公開されています。
 *「学生の自殺防止のためのガイドライン」(日本学生相談学会
 http://www.gakuseisodan.com/wp-content/uploads/public/Guideline-20140425.pdf
 *「大学生の自殺対策ガイドライン2010」(国立大学法人保健管理施設協議会メンタルヘルス委員会自殺問題検討ワーキンググループ)
 http://www.nitech.ac.jp/campus/counsel/files/mentalrescue_guideline.pdf
 *「大学生の自殺対策ガイドライン」(全国大学メンタルヘルス学会)
 http://jacmh.org/index.html

 

 心理療法の専門誌で「大学生のメンタルヘルスと学生相談」の特集が組まれるように、大学や学生の変化とメンタルヘルスの関係への関心が高まったままの状態が続いています。

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『精神療法(Vol.33,No.5)』(金剛出版、2007年)

私大連と私大協について

  「骨太方針(6月9日)」において、東京23区内の大学の新設・増設を抑制する方針が示されましたが、文部科学省は「告示」の改正によって暫定的に対応するようです(その後の立法措置も視野)。9月12日まで、改正案に関するパブリックコメント意見公募手続)が実施されていました。

*「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準の一部を改正する告示案」への意見提出について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000924&Mode=0

 ≪追記(9/30)≫
  9月29日、文部科学省から「特例告示」が公示されました。
  http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1396808.htm

 

 今回の措置で影響を被ることが予想されるのは私立大学だと思われていますが、その私立大学の団体、日本私立大学連盟文部科学省に提出した意見が公開されています(9月7日)。
http://www.shidairen.or.jp/blog/info_c/others_c/2017/09/13/21379


 私立大学が加盟する団体には、日本私立大学連盟(昭和26年(1951年)設立)と日本私立大学協会(昭和23年(1948年)設立。前身の全国私立大学連合会は昭和21年(1946年)設立)があります。過去には4団体が併存した時代もありましたが、現在は前記の2つの団体に集約されています。(私立大学懇話会は昭和61年(1986年)に、日本私立大学振興協会は平成26年(2014年)に解散しました。)

日本私立大学連盟(私大連)
 http://www.shidairen.or.jp/
*日本私立大学協会(私大協)
 https://www.shidaikyo.or.jp/

 私大連には大規模大学が、私大協には中小規模の大学が加盟する傾向にありますが、例外も多く、加盟大学を一概に特徴づけることはできません。各大学が、独自の経緯からそれぞれの団体に加盟しています。

 私大連には「大学時報」、私大協には「教育学術新聞」という機関誌があり、閲読している大学関係者も多いのではないかと思います。


 なお、私大団体に共通した重要事項の意思決定機関として、また、対外的な窓口として、日本私立大学団体連合会が昭和59年(1984年)に設立され、現在では、私大連と私大協が加盟しています。

*日本私立大学団体連合会
 http://www.shidai-rengoukai.jp/

 

 昨今の私立大学の現状をめぐって、センサーショナルなタイトルの本が相次いて出版されています。

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渡辺孝『私立大学はなせ危ういのか』(青土社、2017年)

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諸星裕『消える大学 残る大学』(集英社、2008年)

 

教育基本法について

 昨日、科学技術基本法(平成7年)と科学技術基本計画(平成8年度~)について触れましたが、教育基本法(平成18年改正)と教育振興基本計画(平成20年度~)も同様の関係にあります。
 教育基本法(昭和22年(1947年)制定)が、平成18年(2006年)に改正された際、大学に関する以下の規定が新設されました。

教育基本法
第七条  大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。
2  大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない。


 教育基本法の改正にあたっては、中央教育審議会『新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について(答申)』(平成15年3月20日)において、その方向性が示されました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/030301.htm

 教育基本法改正に関する経緯や国会審議の内容は、文部科学省のウェブページから、その概要を知ることができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/index.htm

 

 『靖国問題』(筑摩書房、2005年)が話題になった頃(筆者、大学院生の頃)、著者の集中講義を受けました。

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高橋哲哉『教育と国家』(講談社、2004年)

科学研究費助成事業(科研費)について

 毎年この時期(9月~11月上旬)は、科学研究費助成事業(科研費)の申請のため、慌ただしくされている大学の担当職員や研究者も多いことと思います。
 そもそも科研費とは、『基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究資金」』(日本学術振興会のウェブページから)であり、正確には、学術研究助成基金助成金と科学研究費補助金のことを指しており、日本学術振興会文部科学省により運営されている事業です。

日本学術振興会科研費」のウェブページ
 http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/index.html

 なお、平成30年度(平成29年度申請分)から、「科研費審査システム改革2018」と呼ばれる制度変更がありました。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/hojyo/1362786.htm


 平成7年(1995年)に制定された科学技術基本法により、平成8年度以降、5年単位の科学技術基本計画が順次実施され、現在は第5期科学技術基本計画(平成28~32年度)の途上にあります。この間、科研費はほぼ一貫して増加し、「計画」開始前年の平成7年度には924億円だった予算規模は、平成29年度には2284億円となっています。

*科学技術基本計画(内閣府
 http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html

 

 競争的な研究資金制度は科研費に限られるものではなく、文部科学省に関するものだけでも以下のような多くの事業が実施されています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/02_itiran.htm

 

 研究機関としての大学は、国の科学技術政策の影響を否応なく受けることになります(日本に、継続した科学技術政策が存在したかどうかは別にして)。以下の本では、科学技術基本法制定(1995年)に至る戦後の科学技術の政策動向を、日米の比較から解説してあります。

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中山茂『科学技術の国際競争力』(朝日新聞社、2006年)

 

 文化人類学の手法を用いて日本の研究者、学会、大学(の問題点)を分析した本も出版されています。

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サミュエル・コールマン『検証・なぜ日本の科学者は報われないのか』(文一総合出版、2002年(原著1999年))

 

短期大学の現状について

 先日、名門と言われる女子短期大学の学生募集停止のニュースが話題になりましたが、短期大学の現状は厳しいものがあるようです。ピーク時(平成5年度)には53万人(530,294人)を数えた学生数も、昨年(平成28年度)は13万人弱(128,460人)にまで減少しています(数値は「学校基本調査」から)。

 

 そもそも短期大学は、戦後の学制改革における暫定的な措置として、昭和24年(1949年)の学校教育法改正により発足しました。昭和39年(1964年)に恒久的な制度として確立し、昭和50年(1975年)には短期大学設置基準が制定されています。

 これからの短期大学の役割については、中央教育審議会生涯学習について(答申)」(昭和56年6月11日)や大学審議会「21世紀の大学像と今後の改革方策について ―競争的環境の中で個性が輝く大学―(答申)」(平成10年10月26日)などで、職業人の再教育を含めた、地域と密着した生涯学習の機会の提供等が提言されています。
 日本私立短期大学協会からは、「短期大学教育の再構築を目指して ―新時代の短期大学の役割と機能―」(平成21年1月16日)が発表されています。
http://www.tandai.or.jp/kyokai/10/archives/000656.html

 なお、平成6年には、短期大学基準協会(平成17年から認証評価機関)が設立されました。
http://www.jaca.or.jp/

 

 現在、特に女子の高等教育機関として発展してきた短期大学の存在意義が問われています。もっとも、存在意義が問われているのは、短期大学に限らず、大学を中心とした高等教育機関全体であるとも考えられます。

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舘昭編『短大からコミュニティ・カレッジへ ―飛躍する世界の短期高等教育と日本の課題』(東信堂、2002年)

「骨太方針」における入学定員抑制方針について

 6月9日、いわゆる「骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2017~人材への投資を通じた生産性向上~)」が閣議決定され、そのなかで、東京23区内の大学の学部の新設・増設を抑制し、原則として定員増を認めない方向性が示され、大学関係者を越えて話題になりました。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2017/decision0609.html

 もっとも、来年度(平成30年度)の状況に関しては、明治大学〔1030人増〕、東洋大学〔569人増〕、日本大学〔472人増〕など、入学定員を増加させる大学が相次いでいます。
 関西圏でも、近畿大学〔920人増〕、同志社大学〔326人増〕、立命館大学〔195人増〕などが入学定員を増加させています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/1384323.htm


 2000年代以降、都心部へ回帰する大学の動きが顕著になってきました。その要因として、中央教育審議会「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(答申)」(平成14(2002年)年8月5日)により、大学新設規制が原則として撤廃されたこと、また、昭和51年度(1976年度)から大都市への大学の新増設を抑制してきた高等教育計画等が平成16年度(2004年度)をもって終了したことなど(工業(場)等制限法は平成14年(2002年)に廃止)の政策上の動きに加え、急激な少子化等の環境の変化がありました。
*高等教育計画等
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/002/gijiroku/010801/5-20.htm
中央教育審議会「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について(答申)」(平成14年8月5日)
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/020801.htm

 

 社会情勢の変化や分散キャンパス解消などの大学の事由により、大学が都心部から郊外へ(または郊外から都心部へ)移転や拡張がたびたび行われてきました。
 日本では、大学とともに街が形成され、発展し、大学と街が密接な関係を保っている街は残念ながら少ないように感じます。

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木方十根『「大学町」出現 -近代都市計画の錬金術』(河出書房新社、2010年)