大学について考えるブログ

大学教育と教学運営に関心をもつ方へ

授業目的公衆送信補償金制度について

 新型コロナウイルス感染症の影響を懸念して、対面での授業を避け、ICTを活用した遠隔授業の導入を図る大学が急増しています。

 遠隔授業のハードルの一つとされるのが著作権の問題です。その解決策の一つとして、平成30年(2018年)に著作権法が改正され、その際、授業目的公衆送信補償金制度が公布日(2018年5月25日)から3年以内に施行されることが決まりました。

 授業目的公衆送信補償金制度とは、授業の課程で著作物の公衆送信を行う際、教育機関が指定管理団体に一定の補償金を支払えば、著作物を適法に利用できるようになる制度です。

*授業目的公衆送信補償金制度
 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00395.html

 

 現在、著作権の改正から2年になろうとしていますが、授業目的公衆送信補償金制度は開始されていません。先日、国立の7大学と国立情報学研究所が連名で、補償金制度の早期実施に関して、文化庁および授業目的公衆送信補償金等管理協会に対し要望書が出されました。
 https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400137295.pdf

*一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)
 https://sartras.or.jp/

 

≪追記(2020,4/6)≫
 SARTRASから、令和2年度の特例として、授業目的公衆送信補償金制度施行のための補償金の「無償」による認可申請を決定したとの発表がありました。
https://sartras.or.jp/archives/20200406/

 

国立大学法人ガバナンス・コードについて

 先月末、文部科学省内閣府国立大学協会三者から、国立大学法人ガバナンス・コードが公開されました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/mext_00611.html

 

 本文中にもありますが、策定に文部科学省内閣府が関わっている背景には、「統合イノベーション戦略(平成30年6月15日閣議決定)において、「内閣府(科技)及び文部科学省の協力の下、国立大学等の関係者は、大学ガバナンスコードを2019年度中に策定」するこことされた」ためです。

 

「令和2年度における大学等の授業の開始等について(通知)」について

 新型コロナウイルス感染症の影響拡大に伴い、大学での授業の実施、学事日程、授業方法(遠隔授業)等に関して、3月24日付けで、文部科学省から通知(「令和2年度における大学等の授業の開始等について」)がありました。

https://www.mext.go.jp/content/20200324-mxt_kouhou01-000004520_4.pdf

 

 前回のブログで授業の実施期間(週)について書きましたが、この通知では、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、「学修時間を確保するための方策を大学等が講じていることを前提に、10週又は15 週の期間について弾力的に取り扱って差し支えない」ことが示されています。

 

 今回の通知は、感染拡大の防止を踏まえた大学の対応等に関するものですが、そのために大学に関連する法令の変更があるわけではありません。この通知を読むことで、改めて様々な法令の理解を深める機会にもなりますし、各大学の学則や規程等を見直す契機にもなると思います。

授業の実施期間(週)について

 前回に続き、学修時間の確保に関する話題です。

 今回は実際に授業を実施する期間(週)を採りあげたいと思います。2学期(セメスター)制をとっている大学であれば、定期試験期間を除いた授業期間を15週確保することになっていると思います。特に10年ほど前から、このことが厳密に適用されるようになりました。

 その切っ掛けとされるのが、前回も言及した中央教育審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』(平成20年)での「講義であれば1単位当たり最低でも15時間の確保が必要とされる。これには定期試験の期間を含めてはならない」という文言です。しかし、ここでは定期試験は授業時間(15時間以上)に含めてはならないとされているだけで、授業の期間に関しては何もふれられていません。(もちろん、週1回1時間の授業であれば15週が必要になります。ただ、この答申の文言を15週授業の徹底の根拠とするのは、個人的には少し無理があるように思います。)

 

 授業期間について、大学設置基準では、以下のとおり規定されています。

(各授業科目の授業期間)
第二十三条  各授業科目の授業は、十週又は十五週にわたる期間を単位として行うものとする。ただし、教育上必要があり、かつ、十分な教育効果をあげることができると認められる場合は、この限りでない。

 また、第23条の直前の第22条には1年間の授業期間も説明されています。

(一年間の授業期間)
第二十二条  一年間の授業を行う期間は、定期試験等の期間を含め、三十五週にわたることを原則とする。

 つまり、これらを合わせて解釈すると、定期試験期間等を除いた授業期間を年間30週確保することを前提に、授業は2学期であれば15週(3学期であれば10週)にわたることを基本としつつ、必要に応じて、4学期やその他の多様な授業形態を認める、ということになるかと思います。

 このことから、やはり授業を15週実施することは大原則と言えると思います。

 

 昨今、1回の授業時間を15分、10分増やし、13週、14週の授業期間を採用する大学が見受けられます。これはトータルの授業時間を満たすことを条件に授業期間を柔軟に設定(短縮)できるという解釈に基づいているようです。

 しかし、単位について示された大学設置基準第21条(1単位45時間の学修時間、授業15時間以上)を満たせば、第22条や第23条を満たさなくてよいという理解がはたして可能なのかどうか、個人的にはやや疑問です。

 また、13週や14週の際に使用される授業時間は1時間(60分)を45分とする大学独自の解釈に基づくもので、その不確かな前提を拠り所に、別の規定を解釈し直すということは「逸脱の常態化」をまねく懸念もあるのではないかと思います。

 

 第23条のただし書の部分は、平成25年に改正されたもです。それまでは「教育上特別の必要があると認められるときは、これらの期間より短い特定の期間において授業を行うことができる」とされていました。

 この改正によって(「教育上特別の必要がある」という要件の緩和)、多用な授業形態、例えば、週2回授業で1/2学期で終了するもの(いわゆるクォーター制)、10週の講義と特定の日に行うフィールドワークを組み合わせたもの、1.2時間の講義の13週実施(1単位)など「教育上必要があり、かつ、十分な教育効果をあげることができると認められる場合」は柔軟な運用が認められたと考えられています。
 しかし、中央教育審議会大学分科会の議論でも「引き続き、授業期間の原則は10週又は15週とする」ことが確認されており(そもそも第23条の前半部分は改正されていません)、大学の全授業期間を一律に13週や14週に短縮することを正当化する明確な根拠は乏しいように感じます。(45分や50分を1時間とする解釈は許容範囲とされることはあっても、50分を1.1時間という解釈は、もはや・・・)

 

 歯に衣着せぬ言い方をすれば、授業期間短縮の動きは、教育効果のためではなく、大学が15週の授業期間の確保に四苦八苦している(祝日に授業日を設定する、夏季休暇を短縮するなど)ためであることは明白です。

 より根本的な問題は、大学設置基準は「大学を設置するのに必要な最低の基準」とされているものの、実際には最高の基準になっているという現実です。(実施が難しいから設置基準の規定を改正するというのは筋が通りません。その一方、実態とあわない規定が「最低の基準」とされた大学側は、無理な解釈を施し、対策を講じざるを得ないことも現実にあるでしょう。)

 中央教育審議会答申『2040年に向けた高等教育のグランドデザイン』(平成30年)でも大学設置基準の抜本的見直しが提言されています。設置基準の見直しの内容に期待している大学人も多いと思います。

定期試験と学修時間について

  新型コロナウイルス感染症の影響で、新学期の開始を遅らせることを想定している大学も多いことと思います。その際に問題となるのが、単位修得に必要な学修時間の確保です。今回の事態では、特例として扱うケースも多いと思いますが、あらためて単位の計算、ここでは一つの観点、定期試験の時間について考えてみたいと思います。

 

 1単位45時間の学修は、授業(15時間以上)と授業外の学修時間で構成されることはよく知られていると思います。それでは、定期試験の時間やそのための準備はどのように位置づけられるのでしょうか。

 中央教育審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』(平成20年)のなかで、「講義であれば1単位当たり最低でも15時間の確保が必要とされる。これには定期試験の期間を含めてはならない」とされています。

 定期試験は授業時間(15時間以上)に含めてはならないとされていますが、45時間の学修量に含めることを何ら否定しているものではありません。つまり、定期試験はその目的、内容、効果などを考慮して、単位に関わる学修時間と考えることが可能ではないでしょうか。

1単位:45時間の学修=授業(15時間以上)+授業時間外の学修(予習・復習、課題、定期試験等)

※上記の解釈が間違っているという根拠があれば、ぜひ個人的にご教示ください。

 

 単位の実質化に関する学生の学修時間の調査(アンケート)の際、授業時間外の学修の例示に予習・復習、課題だけではなく、定期試験やそのための準備時間も含めるとトータルの学修時間は増加するのではないでしょうか。(もちろん、授業回ごとの予習や復習が重要であることに変わりありません。)

 

 ここで、大学設置基準で単位の考え方を確認したいと思います。

(単位)

第二十一条  各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。

2  前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。

一  講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。

二 <以下省略>

 また、授業期間に関しては

(一年間の授業期間)
第二十二条  一年間の授業を行う期間は、定期試験等の期間を含め、三十五週にわたることを原則とする。

とあり、定期試験は広義の「授業を行う期間」に含まれるので、この点からも定期試験を学修時間とすることができると思います。注意が必要なのは、答申では、定期試験を授業時間(15時間以上)に含めてはならないとしていますが、授業期間に含めることは否定していないということです。

国公立大学の入試日程について

 明日3月8日、国公立大学の中期日程の試験が行われます。とは言え、中期日程を設定している国立大学はなく、一部の公立大学で行われる試験日程です。

 国立大学と公立大学の入試種別ごとの募集人員の割合(%)は以下のとおりです(令和2年度)。

      前期 中期 後期  AO 推薦 その他
 国立大学 67.1     14.9  4.9 12.8   0.4
 公立大学 51.7  7.5   11.4     3.0 25.9   0.5

※令和2年度国公立大学入学者選抜の概要(文部科学省)から
 https://www.mext.go.jp/content/191226-mxt_daigakuc02-100001376_1.pdf

 

 国公立大学の入試日程は、前期入試は2/25から、中期は3/8以降、後期は3/12以降となっており、AO入試の出願期間は原則8月以降、推薦入試は11月以降とされてます。(国際教養大学のように独自日程で入試を行う大学もあります。)

  国公立大学とひとくくりにされることもある国立大学と公立大学ですが、両者は制度的に異なる点が多くあります。ただし、入試に関しては基本的には足並みを揃えています。それでも、公立大学は独自の中期入試の実施や推薦入試枠の割合などで特徴を出しています。

 また、公立大学は、入学料が「地域内」や「地域外」で差があるのも一般的です。https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/10/23/1284481_09.pdf

 

リスクと専門知について

 前回に続き、新型コロナウイルスによる感染症の話題です。

 政府の要請を踏まえ、今後予定されている卒業式等の大学のイベントや大学関係のフォーラム・研究会等の中止の発表が相次いでいます。

 

 このような事態が起きると、対策の根拠と有効性、日常生活や経済活動への影響などの立場から意見が表明され、しばしば専門知と社会との関係が議論の俎上にあがります。科学的合理性と社会的合理性、さらにはそこに政治が介在し、次元の異なる複雑な要因が絡んでいます。

 今回の件でも専門知は重要なキーワードの一つだと思います。しかし、科学技術に限らず、人文学、社会科学も含めた専門家が集う大学が、現実には蚊帳の外にあるように思えることは、少し残念な気もします。

 

 ドイツの社会学者ウルリヒ・ベック(1944-2015)が提唱したリスク社会、つまり、政府の重要課題が「富の分配」から「リスクの分配」へ移行した社会(『危険社会:新しい近代への道』法政大学出版局、1998年)を象徴する事態が次々に生じているのかもしれません。

 以下の2つの書籍は、科学技術社会論STS:Science, Technology and Society もしくは、Science and Technology Studies )に関する、多くの事例を扱ったテキストです。日本にもSTSに関して一定の研究蓄積があり、今後、今回の感染症とその対応に関してさらなる分析が生まれると思います。

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小林傳司編『公共のための科学技術』(玉川大学出版部、2002年)

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藤垣裕子編『科学技術社会論の技法』(東京大学出版会、2005年)

危機管理の三原則について

 新型コロナウイルスの集団感染により、今月25日に始まる国公立大学の入学試験(前期日程)をはじめ、各大学の対応が次々と発表されています。

 振り返ると、平成21年(2009年)の新型インフルエンザの流行で、学園祭等の不特定多数のひとが集まるイベントを中止する大学があったことが思い起こされます。

 感染症対策、そして阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)の発生などにより、大学の危機管理への対応がクローズアップされるようになったと感じます。また、留学生の受け入れや日本人学生の海外派遣が増えるにつれて、これまで以上にトラブル対応が必要になったことなどの影響も考えられます。

 

 危機管理の三原則は、防止・回避のための事前方策 (危機の回避)、被害の最小化(危機管理)、通常体制への復帰と再発防止(事後対応)とされています。

 新型コロナウィルス対応は、現在、危機の回避の段階でしょうか。

 

  東日本大震災に際し、大学がとった対応や見えてきた課題について国立大学協会がまとめた冊子がウェブ上に公開されています。

東日本大震災と大学の危機管理-被災した国立大学から学ぶ-』(国立大学協会、2011年)
https://www.janu.jp/univ/shinsai/pdf/201112shinsai.pdf

 以前も紹介しましたが、文部科学省のウェブページで、冊子『リスクコミュニケーション案内』が公開されています。

 

  昨秋に出版された大学SD講座シリーズ3の以下の書籍のなかでも危機管理に関する大学職員の業務について1章が割かれています。

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中井俊樹・宮林常崇編『大学業務の実践方法(大学SD講座3)』(玉川大学出版部、2019年)